三田佳子が面と向かって降板の申し入れを!?

──大女将役の寺島しのぶさん、客の財前役の三田佳子さんも素晴らしかった。

北村 お二人しか考えられませんでした。やっぱりとんでもなく素晴らしい女優じゃないですか。
寺島さんとはお互いに遠慮なく議論ができたんですね。ドラマとか映画の現場って、どうしても時間もお金も制限がある中で、プロとしてどんどんこなしてスケジュールを消化するような状況でやるしかない現場も多いのですが、今回はちゃんと現場でディスカッションして撮れるような予算と日数をプロデューサーが守ってくれたので、納得いくまで議論し、試しながら撮影することができて、それがとても有意義でした。

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『リトル・ロマンス』(1979)が好きという北村監督。『天間荘』にもそれを意識した場面があるそう

──三田佳子さん演じる財前は、かたくなに打ち解けず長逗留している客という難役。引き受けるのはある意味かなりの勇気もいったのではと察するのですが。

北村 三田さんは漫画のキャラを完コピすると言ってくださって。「そこは特に寄せなくともかまいませんよ」とお伝えしましたが、原作通りの同じサングラスで同じ髪型で完コピするんだと(笑)。しかしマンマでしたね。女優・三田佳子は、やっぱりとてつもなく凄かったです。僕が生まれるより前から60年間、銀幕の世界でのトップランナーなんてとんでもない話ですよ。

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原作のキャラを完全に再現した、財前役の三田佳子(右)

コミックス4巻分ある原作を、映像ではなんとか2時間半で収めなきゃいけなかった。登場人物全員の見せ場を作りたいので、組み合わせには悩み、脚本作りにおいては、とてつもない難解なパズルをやってたわけです。時にはまったく違う方向に行ってみることも必要で、三田さん演じる財前についても試行錯誤を繰り返していました。

そんな中、プロデューサーから「三田先生が明日、監督とお会いしたいと云っておられます」と聞きました。その時点での脚本では財前の役がどうにも迷走してしまっていて、魅力に欠けていたので、これは降板の申し入れに来られるのだな、と考えました。礼節を重んじる方だから、断る時にも面と向かってその機会を設けたいという意味なのではと。
絶対そうだと。まずいと思って。そう言わせてはいけないと思っていましたし、僕の中で脚本の問題点はわかっていたので、真摯に修正点と気持ちをお伝えしようと考えていました。

翌日、三田さんがいらして「監督…」とおっしゃった瞬間、やはり断りに来られたんだと確信したんですよ。しかしそれだけは言わせちゃならないと思ったので、速射砲のように30分くらい延々想いを伝え続けたんです。そしたら三田さんが「あらいやだ、監督。私、お断りしようと思って来たんですよ。でもやる気になっちゃった(笑)」と。三田さんは女優としてもひとりの女性としても素晴らしくてとてもチャーミングな方なんです。そこから脚本を全面的に書き直したら大変気に入ってもらえたのですが、結果、出番がめちゃくちゃ増えてしまって事務所の方には「大変ありがたいんですが、スケジュールがハード過ぎて」と言われました(笑)。