原作漫画を読み、泣いて感動した監督

──その脚本を手がけられたのは嶋田うれ葉さん。起用の理由は?

北村 10年ほど前から仲良くさせていただいてるんですが、それがまた不思議な縁なんです。
実現しなかったあるプロジェクトで一緒に脚本を書いていて。当時はまったくの無名でしたが、僕は彼女の人柄と才能に惚れ込んで、ただ者じゃないと感じていました。以来ずっと仲良くしていて、2019年に久しぶりに会った時に、NHK連続テレビ小説の『エール』を書くことになったと聞いても、驚きませんでした。

じゃあそろそろ一緒に何かやろうっていう流れのタイミングで、『天間荘』の原作を読んでもらったら、彼女が「今の時代こそ伝えなきゃいけない物語です」と言ってくれて。まずは脚本だということになり、僕はアメリカからリモートやたまに帰国した時に打ち合わせ、うれ葉さんがずっとまとめてくれてて。完成までにかれこれ1年かかりました。

髙橋 確かにその頃、龍平監督は実写で『天間荘の三姉妹』をやりたいと言ってましたね。連載時から、「すごくよかった。泣いた。感動した」と言ってくれたんだけど、内容は難しいし、世間が求めてる北村龍平像は違うところにあるんじゃないかとか、そう簡単ではないぞと。

でも俺は彼と付き合いも長いし、本当にやるならなんとかするんだろうとは思ってた。

「人生最高の仕事」「のんはとてつもない天才」。“義兄弟”の監督と原作者が語る『天間荘の三姉妹』のすごい魅力_05
意外にもオードリー・ヘプバーン好き。来日時には追っかけをしたこともと語る髙橋氏

北村 映像化が非常に難しいというのはわかっていたんです。でも今回、最初に導火線に点火してくれたのは、やはり嶋田うれ葉さんなんですね。
朝ドラの脚本家っていうのはやっぱりすごい看板なわけなんですよ。かつ彼女の持つフレイヴァーというものがこの作品に合っている。そういう意味でも、彼女が乗ってくれたことはとても大きかったんです。

髙橋 いきなり北村龍平に『天間荘の三姉妹』撮れっていう人はあまりいないと思うんです。でもそれが成立するような雰囲気というか流れになってきましたよね。北村龍平は今、そういうフェーズに入った。本作を見てもらったら、彼にこういうタイプの作品を注文していいんだという。血の一滴も出てないですからね。あっても魚の血程度(笑)。
うれ葉さんもぜひ参加してくださいよ!

嶋田うれ葉 原作を読んだ瞬間にホントに今やんなきゃ!と感じて、すぐ脚本にしますって。今この瞬間にやらなかったらこの企画が実ることはないかもしれない、やっと龍平さんと組める作品が来たと感じて。

龍平さんって映画のイメージや見た目から勘違いされることが多いんですけど、脚本作っててもキャラクターに対する突っ込みがすべて愛に溢れてるんですよ。もうめちゃくちゃスイートなことばかりで。当然、要求は厳しいんですが、そのキャラクターのことを本当に深く考えていて。愛あるキャラクターにしようと願うツッコミしかなかったんです。

「人生最高の仕事」「のんはとてつもない天才」。“義兄弟”の監督と原作者が語る『天間荘の三姉妹』のすごい魅力_06
調理や食事のシーンが印象的。板長役の中村雅俊(右)とのん

髙橋 とてもよかったのはみんなで食事するシーンですね。食べる姿ってすごく意味があって、生きる意志につながってしまうんですよ。だから俺はデビュー作『地雷震』の主人公、いつでも死ぬ覚悟を背負った刑事については、19巻で一回も飯を食うシーンは描かなかった。その食事のシーンを、この映画では正々堂々と描いて、感動を与える。
特に打ち上げの食事の場面、あのしっとりとした雰囲気の中でたまえが呟いたセリフは漫画にも描いたと記憶してますが、とてつもないことを決断したのにみんな笑って写真撮ってごはんを食べる。映像的にもかなり素晴らしかったですね。