自分でビラ配ってでも、見てほしい

──本作が実写化に向けて本格的に動き出したきっかけは?

北村 カリフォルニアに移り住んで15年経ちましたが、東日本大震災があったときはたまたま日本にいたんですね。ある日ツトムさんと食事をしてるとき、戦後最大級の天変地異が起こったというのに被災地の人間でなければすぐに忘れてしまう、1年も経てば風化してしまうという話になって。

そのとき彼が「この状況に対して、俺はモノ創りとして生きてきたんで漫画でモノを言う」と言ったんです。それに僕はものすごいインパクトを受けて。それに対して僕は「映画でモノを言う」とは、なかなか簡単に言えないわけですよ。何をやるんだろう?と思ったら、のちに彼は原発問題もテーマに盛り込んだ『ヒトヒトリフタリ』という作品を描くんです。その後、更にもう一発出てきたのが『天間荘の三姉妹』だったんですよ。

「人生最高の仕事」「のんはとてつもない天才」。“義兄弟”の監督と原作者が語る『天間荘の三姉妹』のすごい魅力_07

──3.11の震災を経験して『天間荘の三姉妹』を描かずにはいられなかった?

髙橋 今話に出た『ヒトヒトリフタリ』、その作品を介して原発問題と戦ったなという自負はあったんです。
また、知り合いの霊能者に「あなたは福島県の人ですよ」みたいに言われたんです。行ったこともなかったのに。
でも、生まれて初めて絵を描いたとき褒めてくれた、ひいおばあちゃん、その人が縁側でずーっと絵を描かせてくれて、俺、絵が好きになったんですね。そのひいおばあちゃんが、福島県人だったことがわかって。

その霊能者に震災の後に会ったら、「あのときは大変だった、人が天空の穴に向かってまとめていっぱい吸い込まれて同時に上がっていった」みたいなことを言うんです。その瞬間にバーッて絵が浮かんできて。そんな着想で『天間荘の三姉妹』は作っていったという感じですね。

──撮影監督は、北野武監督の作品も多く手がけておられる柳島克己さんでしたね。

北村 今回、敢えて新しいチームとやりたかったんです。もちろん日本には気心の知れたやりやすい仲間のスタッフもたくさんいますが、居心地のいい場所にいて甘えたくないっていうのもあって。
そこで、初めて大ベテランの柳島さんに撮影をお願いし、最初にお伝えしたことは、70~80年代の日本映画が本当に活き活きとしていた頃のような、王道の力強い絵を撮りたいんですということでした。圧倒的にガーンというパンチの効いた迫力があって絵力のある映像を創りたかったんです。柳島さんの撮る実景しかり、たとえば海辺にしてもどーんと引いた絵の狙いも僕たち映画屋としてのこだわりですよね。要するにスマホとかiPadで見る絵ではない綺麗な絵を見せたいっていうのはすごくありました。

また、小細工など要らない、そこに存在するだけで説得力のある役者さんたちが集まってくださり、僕にとっても監督として生きてきた20年、生まれてから53年の中で間違いなく一番良い仕事をしたと思っています。尊敬を感じ、ときに嫉妬を感じる本当に素晴らしい人たちに恵まれて。

そういう意味でもこれまででもっともモチベーションが高かった作品ですし、人生で最高に良い仕事して、生まれてきた意味があったのかなと思える作品だと自負しています。

この映画だけは自分で街中でビラを配ってでも、ひとりでも多くの人に見てもらいたいんです。

「人生最高の仕事」「のんはとてつもない天才」。“義兄弟”の監督と原作者が語る『天間荘の三姉妹』のすごい魅力_08

北村龍平 きたむら・りゅうへい
映画監督。『ヒート・アフター・ザ・ダーク』(1998)で監督デビューし、初の長編映画『VERSUS-ヴァーサス-』が世界的に評価を受ける。『ミッドナイト・ミート・トレイン』(2008)以来、拠点をハリウッドに移す。そのほかの作品に『あずみ』(2003)『ゴジラ FINAL WARS』(2004)『ルパン三世』(2014)など。1969年生まれ、大阪府出身。

髙橋ツトム たかはし・つとむ
漫画家。1989年『地雷震』でデビュー。2001年から「週刊ヤングジャンプ」で連載開始した『スカイハイ』はシリーズとして長く続き、北村龍平監督によりTVVドラマ、映画化された。2020年から「ビッグコミック」にて『JUMBO MAX』、「ビッグコミック増刊」で『ギターショップ・ロージー』を連載中。そのほかの作品に『SHIDOH/士道』『ヒトヒトリフタリ』など。1965年9月20日生まれ、東京都出身。

天間荘の三姉妹 (2022)上映時間:2時間30分/日本
監督:北村龍平
原作:髙橋ツトム(『天間荘の三姉妹 スカイハイ』集英社 ヤングジャンプ コミックス DIGITAL刊)

フリーターのたまえ(のん)が連れて行かれた海辺の旅館「天間荘」は、生死の境にある魂が、現世かあの世かを選ぶための場所。しかも初めて会うそこの若女将のぞみ(大島優子)とかなえ(門脇麦)は、母親違いの姉だという。見習いとして宿で働き始めたたまえは、逗留客や街の人々との交流から、この場所が存在する意味を知り、生きるか死ぬかの選択を下していく。

10月28日全国公開 配給:東映
©2022 髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

撮影/尾形正茂