直撃取材で浮かび上がる人間模様
番組のロケ音声を担当する寺田倫昭は言う。
「新鮮だから、じゃないですか。例えば、パン屋さんにいつものように買い物に来て、『どうしてここのパンを買うんですか』なんて聞かれるとは思わないですよね。だからこそ不意に本音を話しちゃうこともあるのかなって」
レギュラー放送開始から今年で10年目を迎えたNHKの番組「ドキュメント72時間」。毎週金曜の夜に放送される30分間のドキュメンタリー番組である。とある場所の3日間にわたる定点観測、そこに訪れた一般人への直撃インタビューから浮かび上がる人間模様――。
その会話の中に散りばめられた、市井(しせい)の極私的な「告白」にハッとさせられることも少なくない。あるときは吹雪の中でうどんをすすりながら青春時代を回想する声、あるときは相席ラウンジで異性と会話が続かない悔しさをにじませる声。はたまた脱毛サロンにやってきた男性たちの「きれいになりたい」という声……。人それぞれに違った人生がある、という当たり前の現実を目の当たりにする。
72時間の“ぶっつけ本番”の取材に、人はなぜ本音を告白するのだろうか。それも初対面の相手に――。ライターも人に話を聞く機会が多い職業である。そのためこの番組のスタッフに話を聞きたいと思っていた。