徹底的に先入観を捨てる取材

たまたま話してもいいタイミングに、たまたま取材が重なった――。その偶然こそが「ドキュメント72時間」を成り立たせているのかもしれない。プロデューサー・篠田洋祐(以下、篠田P)も同調する。

「他の番組、例えば情報番組などでは、それまでの事前取材から答えをある程度想定した上で街角インタビューに臨むことがあります。でも『ドキュメント72時間』では徹底的に先入観を捨てる。こう聞かなきゃいけない、こういった答えがほしい、という意識が強いと、“想定外”のコメントが出てこないんです。事前に決めつけないで撮影に臨む。そういう特殊性はあるかもしれません」

NHK「ドキュメント72時間」はなぜ本音を引き出せる? 制作陣が明かす他番組との“決定的な違い”_05
篠田P

そして、「本音を話していただける理由の答えになっているかはわかりませんが……」と前置きした上で、篠田Pは次のように続けた。

「番組の特徴である『だそう』『なんだって』といった伝聞風のナレーションも、事前に決めつけない取材姿勢と関係しています。撮影クルーが取材中に『現場を知っていく感覚』を、番組を見る方も一緒に追体験してほしいという思いがありまして。『我々にはまだ知らないことがたくさんある』が番組のポリシーなんです。

だからこそ、登場する方のコメントの意図も制作側で決めつけたくない。ひとつの番組で『これが現代の日本の姿です』なんて断定できませんし、するつもりもありません。最終的な解釈は視聴者に託しています」

では、実際に現場でどのように取材が進められているのだろうか。9月初旬、東京・南千住のパン屋の撮影に同行した――。

後編に続く

取材・文/田中 仰
撮影/一ノ瀬 伸

【番組情報】
ドキュメント72時間
NHK総合・毎週金曜22時45分〜
※再放送はNHK総合で毎週土曜9時〜、NHK BS1で毎週水曜17時〜
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