人の本音を引き出すカギとは

こと日本で、日常生活で赤の他人にいきなり声をかけられる機会は多くない。ましてや近所のパン屋で「なぜ買ったか」についてインタビューされるとは誰も思わないはずだ。聞かれた側は一瞬躊躇しながらも、話が進むにつれて緊張がほぐれていく……。
本音を引き出すカギはどこにあるのか。
番組を10年以上担当するディレクター・岡元啓(以下、岡元D)は次のように答える。

「テクニック的なものはまったくありません。専門家や教授が取材相手の場合はある程度理論武装して準備しますが、『ドキュメント72時間』の対象はあくまで一般の方々。関係性がないところからスタートするわけですから。あなたと店(取材場所)のつながり、あなた自身のことを教えてください、というスタンス。素の自分で『会話』するイメージですね」

NHK「ドキュメント72時間」はなぜ本音を引き出せる? 制作陣が明かす他番組との“決定的な違い”_04
岡元D

ロケ音声・寺田によれば、ディレクターには「相手の答えをゆっくり待つタイプ」と「ぐいぐい質問するタイプ」に分かれる。「待つタイプ」のディレクターである岡元Dはあっけらかんとした口調でこう語った。

「じっくり話していただけるかどうかは、その人の体調や気分によるところが大きいんじゃないですかね」

何か秘策があると勝手に思っていた分、拍子抜けしてしまった。それでも、と思う。岡元Dが心がけているという「普通の会話」にこそ、人が本音を話してしまう理由があるのではないか。

「どうなんですかね。その日たまたま話してもいいというタイミングに、たまたま『72時間』の取材が重なっただけな気がします。親友や恋人に話せないようなことでも、気分的にスイッチが入ってポロッと内面を明かす。これまでキャバレーや風俗街も取材してきましたが、そういう場でも意図さえ理解いただければ、10人に1人くらいの確率でじっくり話していただけます」