SNS上の“正義”は言論の自由か、言葉による暴力か

エンタメ化(?)するセレブの裁判。ジョニー・デップ勝訴の鍵は、弁護団の巧みな情報操作にあった_02
裁判所前に集まったジョニー・デップのファン AP/アフロ
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そして近年、被告・原告ともに強力な武器となり得るのがSNSの存在だ。6週間にわたったデップVSハード裁判では、ハッシュタグ付きでデップをサポートする声が圧倒的。TikTokにはハードを揶揄するリップシンクがアップされ、法律の専門家もYouTubeで持論を展開(大半がデップ側を支持)。裁判中の陪審員は余計な情報から遮断されているのが建前とはいえ、スマホやタブレットを見れば大衆が主張する“正義”がなだれ込んでくる状況だったのは間違いない。

デップ側の弁護士は、彼の人気がアメリカの法廷でプラスに働くと判断。2年前からボットを使って反ハードのキャンペーンを密かに繰り広げていたそうで、その証拠もあるとか。証言台でデップ側の弁護士によっていくつもの嘘を指摘されたハードは、ネット上では「嘘をつき、元夫から大金を搾り取ろうとしているゴールドディガー」という人格を与えられ、それがどんどん肥大。鬼の首を取ったかのような論調でハードをディスる人が次々に現れていた。ハード=悪女の論調に違和感を持つ人も少なくなかったはずだが、弁護士の読み通りにことが進んだと言える。

そもそも自分の人生と1ミリも関係ない有名人の名誉毀損裁判に、なぜにそこまで感情移入するのかはわからないが、それが名声のパワーなのだろう。もはや言論の自由なのか、言葉による暴力なのかわからない混沌とした状況と化し、陪審員が結論を出す前にデップの勝訴が見えていたと言っても過言ではなかった。

しかし、本当の勝者は誰なのか? デップもハードも個人的な秘密を暴露され、評判にさらに傷がついたのは間違いない。勝者はズバリ、まだまだ終わりが見えないこの騒動に便乗して「いいね!」を獲得しているユーチューバーやTikToker、オンラインのジャーナリストだろう。

デップVSハード裁判を受けて、ワイナリー売却に関連して元妻アンジーを訴えたいブラッドが、陪審員裁判を望んでいると報道されている。2021年、アンジーはブラッドと共同所有していたワイナリー「シャトー・ミラヴァル」の彼女の権利分をロシアの酒造メーカーに売却。ブラッド側が無断での売却は違法と主張しているのだ。ブラッドが実際に裁判所に陪審員裁判の要望書を提出したかどうかは不明だが、今後も、一定の世論が味方につくと考えるセレブが、陪審員裁判を選ぶケースは増えそう。

来年にはFKAツイッグスVSシャイア・ラブーフ、殺人罪で起訴されているラッパーのヤング・サグとその仲間の陪審員裁判が予定されているので、ネット上で再びさまざまな正義論が展開されるのは間違いない。



文/山縣みどり