三、冷えた体に優しい燗酒

マスミ 夏に日本酒もなかなかいいでしょ?
ヨウコ ホントですね。ビールほどぐびぐび飲まないし、
自分のペースで飲めていい気がします。
マスミ それこそビールは冷たいうちに飲むのが美味しいからね。
さて、冷たい日本酒もいいけど、私は最後は燗で締めようっと。
ヨウコ まさかのお燗ですか?
マスミ 冷たいものばかり飲んでると、体の内側から冷えちゃうでしょう。
じつは夏に燗酒、ちょっと流行ってるのよ。
ヨウコ うーん、お燗って匂いもきついし、
美味しいイメージがあまりないんですが…。
マスミ うん、そうかもね。
ちゃんと燗付けしたお燗はびっくりするくらい美味しいんだけど、
どこで飲むかでかなり印象は変わるわね。
まあ、無理強いはしないよ。

マスミはさっそくマスターおすすめの燗酒をオーダーしている。

マスミ お燗ってハードル高いよね。
最初は燗付けの上手なお店で飲むのが断然いいと思うよ。
私も最初、本当にびっくりしたから。イメージが180度変わるくらい。
ヨウコ そんなに!? 先輩は自分でもお燗付けるんですか?
マスミ 最近少しずつね。冬場に自宅でしっぽり!したいじゃない?(笑)
ヨウコ 鍋を囲んで(笑)
マスミ そう。そんな時はしっかり滋味深い日本酒がピッタリ。
でも夏場は、穏やかで優しい味わいの燗がいいわね。
ヨウコ お燗も季節によって日本酒の選び方が変わるんですね。
マスミ もちろん好みもあるけど。
私は香ばしい麦茶とか、清涼感のある白湯を飲む感覚に近い燗酒が夏に合うように思うわ。

そこに徳利に入った燗酒がやってきた。

マスター 少し熱めにしてありますので、
だんだん温度が下がってくるのも含めて楽しんでみてください。
マスミ さすがマスター。なんて日本酒ですか?
マスター 十字旭(じゅうじあさひ)の生酛(きもと)純米です。
口の中でベタつかないよう、少し加水しています。

ヨウコ 先輩…“キモト”ってなんですか?
マスミ 昔ながらの造り方のことで、時間も手間もかかるの。
ヨウコ うーん、難しそうですね。日本酒の味にどう影響するんですか?
マスミ その質問はすごく難しいな。
一般的にはコクがあって味に厚みがあるイメージかな。
ヨウコ わかるようなわからないような。
マスミ こればっかりは生酛造りのお酒を、たくさん飲んでみないとね(笑)

徳利からお猪口よりも平たくて飲み口の広い、平杯に注ぐ。
ふんわりと優しいお米の香りが漂う。ニコニコしながらマスミは、すいっと口に含む。

マスミ ああ、美味しい。優しい酸味と甘みで、まさにお茶飲んでる気分だわ。
ヨウコ えええ~。あの、一口もらえますか?

マスミは笑いながらもうひとつ平杯を頼み、それにゆったりとお酒を注いだ。

ヨウコ あ、あのツンとした香りがないですね。
…ん⁉ え、あれ? 口当たりも柔らかくて、優しい味です。
マスミ でしょう~。もうちょっと飲んでみる?
ヨウコ ハイ。えー、お燗って美味しいんですね。なんかもうびっくりです。
暑くてつい冷たい飲み物ばかり飲んでたんですけど、
体にすうっと吸収されていくみたいです。
マスミ 温かいお酒だと、アルコールの吸収も早く始まるから
あとから急に酔いが回ることも少ないの。悪酔いしづらいというメリットもあるよ。
ヨウコ 恐るべし燗酒。
マスミ 温度もいろいろあって、5度おきに呼び方が変わるの。
普段私たちが「熱燗」と呼んでいるのは、50度の燗酒のこと。
ヨウコ へええ。他はどんな呼び方があるんですか。
マスミ そうねぇ。一度にあれこれ覚えるのは大変だから、特徴的なものから。
35度が人肌燗。まあちょっと平熱としては低めよね(笑)。
それから40度がぬる燗。ちょうどお風呂の温度くらいだけど、ぬるいってほどじゃないね。
ヨウコ 面白いです~!
マスミ そうだ。スパイスと燗酒の相性もいいの。マスター、カレーください!

カレーと日本酒!?と驚きながらも、運ばれてきたカレーを食べた後に日本酒を飲んで
ヨウコは何か悟ったような顔をした。それを見て、すかさずマスミが言う。

マスミ スパイスの香りと日本酒の香ばしい味が口の中で溶け合って
なんとも…合うでしょう?
ヨウコ それ、それです! 私、もう先輩についていきます!

日本酒の新たな魅力をまた見つけたヨウコ。
ペロリとカレーも平らげて、すっかり夏を満喫した模様。

第1回「日本酒を飲んでみたらオイシイことだらけだった」はこちら
第2回「〜日本酒と料理のオイシイ関係〜」はこちら
第3回「夏のホムパ! 先輩にお呼ばれされた時の賢い日本酒の選び方」はこちら

イラスト/藤原基央
編集/株式会社ナート
文/小野寺涼子