「ちょっとずつだっていい、続けてみる」
もう一つ、白石さんが自信と共に得たものがある。それは、先ほども少し話に上がったが、「横の繋がり」だ。彼は言う。
「ボディビルとともに、サーフィンを始めて、友達についていくと、友達の友達と出会うんです。気づいたら、新しい友達が増えている。『BBJ』の大会でも、控室では若者たちと一緒に過ごし、知り合いや仲間が増えました。サーフィンにしろ、ボディビルにしろ、友達がどんどん増えていくのはやっぱり嬉しいことですね」
永らく叫ばれてきた「中高年クライシス」の一因に、同世代で悩みを共有できない現状がある。特に男性は、女性に比べてさらに孤立しがち、との声も多い。
何も白石さんのように「ウルトラマッチョ」にならなくてもいい。将棋でもいい、マラソンでもいい、釣りでも料理でも音楽でも、何か共通の趣味を始めさえすれば、きっと横の繋がりができていくはずだ。
そんな白石さんの週末は忙しい。彼は、湘南の海岸の芝生にテントを立てる。名づけて「白石ベース」だ。
「日曜日の天気が良い時にのんびりと立てるんですよ。SNSで呼び掛ければ誰かしら顔を出してくれる。それを見て、次回にはその友達の友達もやってきます。そんな繋がりがどんどんできています。これも、サーフィンやボディビルと同じで、何かを始めて、続けていることです」
50代半ばになって、ボディビルを続けることを、諦めたくなる瞬間はないのだろうか。そう聞くと、彼は首を大きく横に振った。
「辞めた、と思わない限りは続けていることになりますよね。よくサーフィンでも『引退しました』と言う人がいますけど、やりたい時にやれば、引退なんて口にする必要ない。趣味に引退なんかないんです」
辞めたと口に出さない。辞めたと思わない。そうすれば、それは「続けていること」と同じ。白石さんはそんなふうにポジティブに考えている。
いっぽう、「絶対にやる」という考えからも脱却する。目標を立てたり、目標に厳密になったりし過ぎない。疲れた日や、残業の日にまでも無理してジムに行かなくたっていい。
むしろ、「何かを始めてみること」、もしくは「何かを再びやり始めてみること」。そして「それをちょっとずつだっていい、続けてみること」。決して根詰めず、ただ「続けてみる」。そうすれば、ちょっとずつ気持ちが変わってくる、そう白石さんは力説する。
「せっかく腕立てを毎日10回したんだから、〆のラーメンを今日は我慢しようかな。あるいは、ラーメンは食べちゃったけど、スープは我慢しようかな。そんなふうにちょっとずつ意識が変わってくるはずです」(白石さん)
最後に白石さんにとって筋トレとは?と質問した。
「私にとっては筋トレは、人生を救ってくれたものの、あくまでも一つです。『筋トレだけがすべてを解決する』とか、そういうのは好きじゃない。
私はたまたま、この人生をもう一度立て直すのは、筋トレがきっかけの一つだった。それを言いたくて、 SNSで毎日飲んでいる写真とか上げます(笑)。『それは両立できるよ』って。好きな言葉が『笑顔でいる時間は1秒でも長く』。筋トレはその手段の一つです」
筋肉と出会い、パートナーと出会い、友と出会う。1日の終わりに至福のお酒を飲むためにきょうも白石さんはベンチプレスを上げ続ける。
取材・文/加賀直樹













