「このままだともう制度が持たない」という政府のロジック
西村 この本の最初の方でかなり分厚く言及しましたけれども、なぜ高額療養費制度に手を入れるのかというと、最初に政府が言っていたのは「国民医療費の倍のスピードで高額療養費が伸びている」と。でも、実際の金額や具体的な対GDP比の伸び率で見るとまったくそうじゃないわけですよね。財政学者や医療経済学者の専門家諸氏も、国民医療費自体が今日明日にも破綻するような危機的状況にあるわけではない、と指摘しています。
宋 そもそも診療報酬を抑え続けて薬価もどんどん単価を安くして、伸びを抑えてきたんだから、医療費はそんなに大きく伸びてはいないですよ。ずっと50兆円弱ですよね。
西村 国民医療費自体は、名目値で見れば伸びていくものだと思うんですよ。名目GDPが伸びていくのと同じことで、人間が経済活動をすればそりゃ増えるでしょ、という話で。
とはいえ、一時凍結前に政府が主張していた「国民医療費を上回るスピードで高額療養費が増加している」というロジックはあまりにミスリードがひどくて、その理屈はもう使えないと思ったのかどうかはわからないですけれども、今回の引上げ案の際には「高額療養費の持続可能性を長期にわたって維持していくために」と言っています。でも、その「持続可能性がヤバい」って誰がどこで言ったの? と。
宋 そんなにヤバそうじゃないですよね。
西村 その根拠を何も言わないまま、いかにも「このままだともう制度が持たない」という印象を持たせるような言い方をしている。
宋 たとえば高齢者の医療費を3割に上げるという話題になると、日本医師会は受診回数が減って病院が潰れることを危惧するからなのかすごく反対しますが、これは私の邪推かもしれませんけれども、高額療養費の自己負担限度額を上げても病院経営に影響がないからなのか、医師会はあまり反対していないですよね。
西村 一時凍結される前から日本医師会はまったく反対してないですよ。厚労省の社会保障審議会医療保険部会にも高額療養費制度の在り方に関する専門委員会にも、日本医師会の理事の方が審議メンバーで入っていますが、まったく反対しないですからね。東京医師会は、最初に騒ぎになった去年の凍結案のときは、様々ながんや疾患の学会などと同様に、引き上げ反対の声明を出していましたけれども、日医は反対声明も出していません。
宋 医師の団体が何も言わなくて、結局は当事者である闘病中の患者さんたちが尽力して訴えるしかないという現状は、すごく残念です。














