石破は止めたが、高市は改悪を押し進めた
西村 この対談をしている時点でも参議院で予算案の審議が続いています。配信時には高額療養費制度〈見直し〉案がはたしてどうなっているのか。まずはそこが非常に気がかりですよね(本対談は2026年3月25日に収録)。
宋 石破さんは一時凍結してくれたんですが、高市さんは止めてくれないのかな……。どうなんでしょう?
西村 政府が〈見直し〉案を進めたがる理由はいろいろあると思うんですけれども、ひとつは書籍『高額療養費制度 ひろがる日本の〈健康格差〉』の中でも説明をした「改革工程」の一環だから、ということが大きそうですよね。
実際に、高市内閣発足後の11月17日に発出した内閣総理大臣指示『社会保障改革の推進について』の中でも、「高額療養費制度の見直しをはじめとする全世代型社会保障構築のための『改革工程』に掲げられた医療・介護保険制度改革の着実な実現に向けた議論を進めてください」とすでに明記しているんですよ。
自民党総裁選の時に高市さんは、5人の候補者の中で唯一、高額療養費制度の自己負担上限額を引き上げに反対、と言っていたので、そこに若干の期待もあったと思うんですけれども、実際に内閣が発足してみるとこのような内閣総理大臣指示を出しているし、その少し前に行われた11月上旬の臨時国会でも、「高額療養費の引き上げはしないですね」という野党からの質問に対して曖昧な返答をする一方で、彼女自身も難病に罹患している当事者として「この制度を利用している人々や長期の疾患で治療している人の苦しさはよくわかっているつもりです」みたいなことも言っていたんですよね。
でも、12月末の予算案で引き上げを提示して、その後、衆議院選で圧勝した流れでこのまま押し切れると考えているのだろうと思います。
宋 それでいったい誰が得をするんだろう、と思うんですよ。だって、医療費も社会保険料もたいして削減できるわけじゃないのに、そこまで強引に進めたところで、結局は現役世代で運悪く高額医療が必要な病気になった人や、あとで詳しく説明しますけども不妊治療が必要な人たちに皺寄せが行くだけでしょ? 私は小さなクリニックを経営しているんですけれども、結局、困るのは中小企業の協会けんぽ加入者や国保の人という……。
付加給付(高額療養費が適用される治療を受けた被保険者に、さらに給付を行って負担を軽くする健保組合や共済組合の制度)のことも、あまり論じられていないですよね? 高額療養費制度だけでも「何それ?」みたいな状態で制度に詳しくない人が多いのに、さらに付加給付がある人とない人がいる、というところまではなかなか理解が進んでいないように思います。
西村 そういう制度があって当たり前、という世界に住んでいる人もいれば、僕もそうですけれども「何それ? そんなものがあるの?」という世界に住んでいる人もいる。誰しも自分が加入している健康保険のことしかわからないから、そこのギャップ、認識差は大きいですよね。しかも、付加給付のことを語る以前に高額療養費の自己負担上限額引き上げの説明だけですでにおなかいっぱいになってしまい、この問題がどれくらい現役世代に直撃するのか、ということが直感的に理解できない。
そもそもものすごく複雑な制度なので、自分自身が当事者になるまではピンと来ないだろうし、そんな人たちにとっては、去年、一時凍結になったことだって遠い世界の話なのだろう、と思います。
宋 全国がん患者団体連合会(全がん連)の天野慎介さんたちが頑張ってくださったおかげで去年は一時凍結されて、今回も年間上限額などが導入されましたけれども、いろんな疾患や治療に利用される制度なのに、一般的には「歳をとって運悪くガンにかかった人が大変になるのかな?」みたいなイメージを持っている人も多いと思います。
でも、たとえば女性がかかるがんって、年齢が若いんですよ。年間10万人くらいが罹患する乳がんの場合だと、40~50歳代がすごく多いんです。子宮頸がんはもっと若い。だから、現役世代のど真ん中ですよね。子宮体がんや卵巣がんの場合は50歳前後、卵巣がんだと60代くらいが多いので、そんなに高齢じゃない時期に罹患するがんがすごく多いんですよ。
西村 ひと昔前のイメージだと、がん治療は手術で患部を切除して、その後しばらく療養、というものだったかもしれませんが、今はだいぶそのあたりのアプローチも変わってきているようで、予後の再発防止や寛解を維持するために長期にわたって薬を服用し続ける治療が続くわけですよね。














