「ロウソクとユリの花を用意してほしい」
本番を1週間後に控えたある日。プロデューサーのアレックス・コレッティがカートのところへ、ステージのイメージを確認しにいくと、カートは「ロウソクとユリの花を用意してほしい」と要求する。
アレックスが「葬式の時みたいにかい?」と尋ねるとカートは「ああ、まさにそんな感じだ」と答えた。こうしてそれまでの『MTVアンプラグド』とは一線を画した、特別なステージが準備されていくのだった。
収録は11月18日、ニューヨークのソニー・ミュージック・スタジオで行われた。カートの要望通りにロウソクやユリの花が飾り付けられた舞台で、普段の荒々しいサウンドと叫ぶようなヴォーカルを封印し、アコースティックなサウンドとカートの歌声によってメロディーや言葉が会場に響き渡った。
その純潔性に満ちた音楽に涙した観客もいたという。
その模様は12月16日に放送され、商業主義に屈することなく自分たちの音楽を貫きながら、それまでのニルヴァーナとは違う新たな一面を見せたことで、大きな反響が寄せられた。
後年、マネージャーだったダニー・ゴールドバーグは、カートが『MTVアンプラグド』でのステージにとても満足していたことを証言している。
「カートが収録のあとで電話をかけてきたんだ。彼は『とても誇りに思っている。今までで最高の出来で、きっとバンドが広いオーディエンスにアピールするチャンスになる』と言ってたよ」
ニルヴァーナはその後、カートが翌1994年4月に自らの生涯にピリオドを打ったことによって活動停止となった。
だが、同年11月1日、MTVでのライブを収めた『アンプラグド・イン・ニューヨーク』がリリースされると、カートを失い活動停止となったニルヴァーナに、チャート1位という栄誉をもたらすのだった。
文/佐藤輝 編集/TAP the POP
参考・引用/『病んだ魂:ニルヴァーナ・ヒストリー』(マイケル・アゼラッド著/ロッキンオン)













