常識を外したセットリストの覚悟

彼らはセットリストを組むにあたり、自分たちの曲のほかに、デヴィッド・ボウイの『世界を売った男』やブルースの巨人レッド・ベリーが残した『ホエア・ディド・ユー・スリープ・ラスト・ナイト?』など、カバー曲を何曲か取り上げている。

そしてその中に、彼らの大ヒット曲である『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』は入らなかった。この曲を演奏することに辟易していた彼らにしてみれば、外すのはごく自然の成り行きだった。

『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』のミュージックビデオはYouTubeで20億回再生を超える。写真は『ネヴァーマインド - 30周年記念デラックス・エディション [SHM-CD]』(2021年11月12日発売、UNIVERSAL MUSIC JAPAN)のジャケット
『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』のミュージックビデオはYouTubeで20億回再生を超える。写真は『ネヴァーマインド - 30周年記念デラックス・エディション [SHM-CD]』(2021年11月12日発売、UNIVERSAL MUSIC JAPAN)のジャケット

ゲストには、カート・コバーンがミート・パペッツを呼びたいと提案した。ミート・パペッツは1980年から活動している3人組のバンドで、ニルヴァーナに音楽のレクチャーをしたり、ジョイント・ツアーをしたりしている間柄だ。

カートもファンの1人であり、セットリストには彼らの曲も入っていた。

『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』のMVで最優秀オルタナティブ・ビデオ賞を受賞したニルヴァーナ(写真/Shutterstock)
『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』のMVで最優秀オルタナティブ・ビデオ賞を受賞したニルヴァーナ(写真/Shutterstock)

バンドのこうした提案に対して、番組制作のスタッフたちは了承してくれたものの、MTVの役員はいい顔をしなかった。

彼らが求めていたのは話題のミュージシャンが大物ゲストと一緒に、大ヒット曲を披露するというステージだったからだ。それが確実に視聴率をとる常套手段だった。

そういった商業主義的な方向に背を向けて、自分たちの音楽と真摯に向き合うニルヴァーナに対し、役員たちは不満を募らせるばかりだった。