「金太郎、海外赴任する。」(集英社文庫・コミック版5巻収録)
肩書を失った男が気づいたものとは
会社を辞めた途端、誰からも見向きもされなくなる――。サラリーマンなら、一度はうっすら考えたことがある不安かもしれない。
『サラリーマン金太郎』第50話で印象的なのは、まさにその“会社の看板を外した後”の虚しさが、生々しく描かれていることだ。
今回、金太郎はナビリア赴任を前に高子と再会する。しかも黒川社長の口から、高子が自分の娘であることまで明かされ、一気に話は大きく動く。だが、この回で強く心に残るのは、ホテルで金太郎が出会う元銀行副頭取・川島のエピソードだろう。
川島はホテルのレストランで一人で食事をしたあと、そのままホテルの屋上へ向かう。そこで飛び降りようとしたところを、金太郎が呼び止めた。
川島は、サラリーマンとして第一線を走り続けてきた人物だった。ところが退職した途端、毎年100人を超えていた年賀客が、今年はまさかのゼロ。会社の看板を外した瞬間、自分には誰も寄ってこなくなった――その現実に打ちのめされていたらしいのだ。
40年間働いてきたのに、自分の周りに残った人間関係が、実は肩書ありきのものだったと気づいてしまう。
「会社の看板を外したら、わしになぞ誰も見向きもしなくなる。サラリーマンになって40年間、そういう人間の付き合い方しかしてこなかった。自分自身に腹が立って、情けなくてね」
サラリーマンとして真面目にやってきた人ほど、笑えない話だろう。
そんな川島を、金太郎は彼を探していた妻のもとへ連れていく。そして説教くさく励ますのではなく、自分の友人の言葉を借りながら、「自分が生きることで、世界中で誰か一人でも足しになるなら、一生懸命生きる」という趣旨のことを伝える。
会社の中でどれだけ偉かったかではなく、誰か一人のために生きることにも価値がある。その考え方が、肩書を失って立ち尽くしていた川島を少しだけ前に進ませた。
『サラリーマン金太郎』という作品ではときに、サラリーマン論だけではなく、「会社員である前に、人として何が残るのか」という問いをふっと差し込んでくる回があるのが面白い。























