「テレビか、ネットか」ではなく、誰が熱狂を設計するのか

もっとも、地上波にはまだ強みがある。無料で誰でも見られること、災害報道や速報での公共性、年配層を含めた到達力は依然として大きい。だが、それでもWBCの1790万人という数字は重い。視聴者が「配信はライブに弱い」という先入観を捨てた瞬間でもあるからだ。

Netflixの今回の記録は、単なるスポーツ中継の成功ではない。テレビ局が長年握ってきた「みんなで同じ瞬間を見る」という特権が、ついに配信へ移り始めたことを示す警告灯だ。WBCをきっかけに、地上波の“聖域”はどこまで崩れるのか。テレビ界は今、静かに、確実に、正念場を迎えている。

しかし、危機感はある一方で『放送の終わり』とは見ていない。前出のディレクターが分析する。

「2022年のサッカーW杯でのAbemaの全試合生中継や今回のNetflixのインパクトは確かに強いですが、それでもテレビは依然として接触時間の長いメディアではあります。2025年調査(東京都15~69歳対象)でも1日あたりの接触時間は122.1分とまだ大きい。さらに民放はすでにTVerなどを通じて配信側にも回っており、同じ2025年調査の利用率は59.7%、テレビ画面での見逃し視聴も50.0%に達しています」

依然としてテレビの視聴習慣が残る層も…(写真/PhotoAC)
依然としてテレビの視聴習慣が残る層も…(写真/PhotoAC)
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さらに、テレビ広告もデジタル化が進み、放送と配信を一体で売る体制づくりが進んでいる。つまりNetflixのWBC成功は脅威ではあるが、テレビ局にとっては「放送の終わり」ではなく、「自分たちも配信を含めて稼ぐ構造へ移る転機」と映っているのだ。

配信がライブ視聴の主役になりつつある今、問われているのは「テレビか、ネットか」という古い二項対立ではない。視聴者がその瞬間をどこで受け取り、誰が熱狂を設計するのか――勝負の軸そのものが移り始めているのだ。

WBCで示された1790万人という現実は、テレビに終わりを告げる数字ではなく、次の時代のルール変更を告げる号砲なのかもしれない。

取材・文/集英社オンライン編集部