2~8階の全部が「特区民泊」

実は問題のマンションは、Aさんを含む複数の住民が一般的な賃貸契約で入居した状況で、居住スペースの2~8階の全部が「特区民泊」として使用できる認可を受けている。

「特区民泊とは、安倍政権時代の2013年に制定された国家戦略特別区域法に基づき外国⼈観光客の宿泊施設不⾜解消のために定める国家戦略特区で営業する民泊です。2泊3⽇以上から貸し出しができ⼈数制限もありません。

この戦略特区に手を挙げた大阪市では、4⽉末時点で施設の認定数が6194か所あり、全国の施設数の95%を占めます。さらに大阪市の施設の4044か所は中国語で対応できることを売りにし、この多くは事業の責任者である“営業者”が中国系の人物や企業とみられています。

大阪市では違法な特区民泊が続出し、市は“撲滅チーム”をつくって対処に追われています。板橋のマンション家賃の爆上げが話題になりましたが、民泊のトラブルが群を抜いて多いのは大阪市です」(在阪局記者)

住民が明け渡しを迫られたマンション(撮影/集英社オンライン)
住民が明け渡しを迫られたマンション(撮影/集英社オンライン)

今回の問題となっているマンションでも、行政が「営業者」の実態に不透明な点があるとみて調査に入っていることが分かってきた。

「一つのマンションの中に一般の賃貸契約の部屋と特区民泊の部屋が混在すること自体は問題ではありません。ただ、このマンションは特区民泊の認可を申請する際、大阪市内に拠点を置くY商事を営業者として登録しています。

しかし今回、民泊に使うので部屋を明け渡せと住民に求めてきたのは別のX社です。管理に責任を持つのは誰なのか、宿泊施設の監督を行なう大阪市保健所が調査に入っています。

もしマンション内の民泊の営業者がX社だと確認されれば、部屋は民泊としての使用が禁じられます。特区民泊の認可は継承ができないためY商事が取得した認可をX社は引き継げないからです。今後も民泊業をしたいのならX社が認可を新規に取得する必要があります」(大阪市関係者)

X社とY商事はどういう関係なのか。登記簿によればマンションは、2019年9月に中国系の投資会社Z社が新築し、2023年10月にX社に売却されている

「Z社がX社に売却する前に、Z社の“代理人”としてマンションの入居者募集や特区民泊の認定手続きを行なっていたのがY商事です」と大阪市内の不動産業者は証言する。

住民が明け渡しを迫られたマンション(撮影/集英社オンライン)
住民が明け渡しを迫られたマンション(撮影/集英社オンライン)
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そこで集英社オンラインは、現在のマンションオーナーであるX社に入居者への明け渡し要求や特区民泊の管理状況について取材を試みた。

訪ねた会社で応対した社員は「社長でなければわからない」と答えたため、社長あてに質問状を送ったが回答はなかった。

Y商事に取材を試みると、ホームページに公開された番号の電話に出た男性が「この番号は以前Y商事が使っていたが2、3年前からは関係のない私たちが使っている。Y商事のことはわからない」と答えた。

そこで会社所在地を訪ねると、住宅街の一般住宅のポストに会社名が書かれていたが、インターフォンや呼びかけに反応はなかった。

特区民泊の運用に疑いを持った行政が調査に入る中で、一般居住者に一方的な明け渡し要求が行なわれたマンション。取材の中で、このマンションに絡む不審な問題がそれだけにとどまらないこともわかってきた。

※「集英社オンライン」では、今回の件についての情報を募集しています。下記のメールアドレスかXまで情報をお寄せください。

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(♯2に続く)

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班