映画をもっと面白くしようとした猪木的発想で家族に危機が…
━━当確が出たあと、トイレに行く博士にカメラをもって監督がついていき「ここまで撮るのか」と言われる場面もありました。
博士 人間、素になるのはトイレとお風呂といわれますけど。ボク自身はどこを撮られても平気。カメラがいることが自然というか。
青柳 そこは博士の凄さで、選挙中はずっとカメラに対して開いてくれていました。カメラと僕自身はその懐に飛び込ませてもらって関係性を重ねていくことができたんです。
トイレのシーンはその関係性の極地だと思います。あのシーンは、僕自身は無意識についていっているんですよね。単純に僕もトイレ行きたかったし、カメラも博士のホッとした場面を撮りたいと僕の身体に伝えたんだと思います。
博士との関係性も、生理的欲求も、ずっと共にしていたことでシンクロしました(笑)。
━━本物のドキュメンタリーですね(笑)。
博士 これは監督の映画だけど、ボクの人生はこの映画を観終わったあとも続いているから、どこまでだって自分の人生をさらして見せられるよ。そう、それでもっともっと面白くしたいと思って、こないだ離婚しようとしたんですよね。
青柳 映画の未公開シーンを作ろうとしたってことですか(笑)!?
博士 そう。これだけ内助の功を果たしてきた妻と離婚した水道橋博士は、ひどいやつだ!!とメディアに叩かれまくる。これはプロレスでいうアントニオ猪木的なもので、ホーガンに勝つIWGPの結末を誰もが思い描いている中で、ひとりだけ違う物語を作ろうとする、猪木的な発想なんですよね。
青柳 ……勉強になります。
博士 でも、彼女(妻)にはこの仕組みを教えずにやろうとしたから、ものすごい修羅場になり、まわりからも「いやいや、博士」とマジで止められるし(笑)。
青柳 そうなんです。ドキュメンタリーのいま一番大事なことは、許可を頂かないといけない。これ、つまんない話かもしれないですが、現実に離婚となるとこれは映画としては……。
博士 事実に基づくストーリー映画って、エンドロールのあとに、このあとナニナニはどうなったというのが、文字情報で出るでしょう。あのときに驚きと余韻が欲しいと思ったの。
青柳 ああ、でも、離婚はやめてください。オネガイシマス。
━━最後に、青柳監督が撮り終わって、いまいちばん残っているものは?
青柳 博士さんたちとの関係と、政治に対してすごい関心をもつようになりましたね。自然と身体が政局を調べている。博士さんの撮影で、他政党の人たちもフィジカルで会っているから、それぞれの人たちのその後にも目が向くようになりました。
政治が自分事になったということだと思います。それをこの映画を通して皆さんにも感じてもらえれば嬉しいですね
〈前編はこちら『なぜ水道橋博士は議員辞職し、ウーバー配達員になったのか…映画『選挙と鬱』で語る3年前の夏の出来事』〉
『選挙と鬱』 6月28日(土)より ユーロスペースにてロードショー
「オレ、もう終わっちゃったのかな?」
政治家として、誰かのために生きること
鬱病を経て、まず自分のために生きようとすること
民主主義のもとで生きる全ての “私” たちと繋がるポリティカルドキュメンタリー
偶然にも選挙の“従軍カメラマン”となり選挙活動チームに加わりながら密着撮影したのは『東京自転車節』の青柳拓。持ち前の人懐こいキャラクターを活かしチームの一員となった青柳監督は、内側から選挙活動のディテールを描き出した。一方、水道橋博士の鬱病による休職~辞任とその後も追い続けたことによって、数多の選挙ドキュメンタリーとは一線を画す人間ドラマとして本作を完成させ、個人視点から社会を浮かび上がらせる作家性を本作でも発揮。一人の芸人のチャレンジを通して、政治家の根幹である“誰かのために生きること”、一方で鬱病というキーワードから垣間見える、現代社会で重要な“自分のために生きること”を同時に問いかける、私たちのポリティカルドキュメンタリー。
監督・撮影:青柳拓
出演:水道橋博士、町山智浩、三又又三、原田専門家、やはた愛、大石あきこ、山本太郎ほか/撮影・編集:辻井潔/音楽:秋山周/構成・プロデューサー:大澤一生/製作:水口屋フィルム、ノンデライコ/配給・宣伝:ノンデライコ
HP: senkyo-to-utsu.com
構成/朝山実