議員辞職後にウーバー配達員に。自分の中では『スターウォーズ』?
━━2022年の参院選に奇跡の当選を果たした水道橋博士。しかし、その後、鬱になり辞職。映画の後編では、鬱の対症療法のひとつとして、自転車を購入しウーバーイーツの配達人を始められる姿に見入ってしまいました。
青柳拓監督(以下、青柳) 鬱を公表し議員辞職されたあと、僕から博士さんに直接連絡を取るというのは控えていたんですが、「『東京自転車節』のようにボク、ウーバーでもやろうかな」とSNSで発信されているのを見て、おおっ!!となったんですよね。
水道橋博士(以下、博士) 青柳クンの監督作品でコロナ禍のゴーストタウンの東京で自ら自転車に乗ってUber Eatsの配達員になる姿を描いた『東京自転車節』を観ていたというのもあったのと、これは現時点でボクの持論なんですけど、鬱の罹患、再発を防ぐためには「運動」「銭湯」「対話」、3本の柱を日常のルーティンに取り込むというのがあってね。それを実践しようと始めたんです。
ウーバー始める前に、(辞職後、半年ぶりに監督と再会し)中野区の広い公園でインタビューを受けるシーンがあって、あれは振り返ってみたら、ボクの中では映画の『スターウォーズ』的なんだよね。
青柳 あの日は、ぜったい開放的なグラウンドのど真ん中で聞きたいと思ったんですよね。子どもたちが遊んでいて、遠くでは楽器の音も聞こえて、夕暮れ時で、放課後のような解放感がねらいでした。
ただ、インタビューを繋ごうとしたら後ろにいた子供たちが消えたりして(笑)、博士さんも選挙時から雰囲気も変わっているから、なんだか不思議で少し非現実的なシーンになっていますよね。
博士 今、見ると、映画的な妄想で言えば、帝国軍にやられたルーク・スカイウォーカーが故郷の砂漠の惑星で、傷を癒やしているように見えるの。それで、主人公が次の召命に応じて立ち上がり、出撃に乗り込むのが……自転車なんだけど(笑)。
あの頃、映画は何処で終わるのか、決まっていなくて、言っていたのは、帝国の象徴、デス・スターが国会議事堂という設定なんです。国会へもう一度、乗り込むところで終わったらどうだろうって。
青柳 それで、国会議事堂の中に吉野家があるんですけど、どうやったら配達の注文が受けられるだろうかとおっしゃってましたね。
博士 ラストシーンはボクがウーバーイーツの注文を受けて国会に入っていく。ぜひ、そこを撮ってくれって言っていた(笑)。
━━国会への配達はまだ叶わずですが、配達が遅れた博士が相当怒鳴られたシーンもありましたね。
青柳 僕も配達人をやっていましたが、あんなに怒られることはなかったですね。あの時は、道に迷ったのと、博士が途中で「ここはタモリさんと昔食事したお店だよ」と説明してくれたり、それを撮ったりしていたこともあって……。とはいえ、あそこまで。
博士 しかも、ボクをどやしつける男の人の隣には、小さなお嬢ちゃんがそれをじっと見ていて。
青柳 最後「気をつけろよ!!」と、そのお客さんが後ろを向く。その瞬間、博士が……。
博士 聞いたんだよね、「撮れた?」って。怒られている間、もちろんシュンとはしているんだけど、じつは内心では「ヤッタ!!」とも思っていて。
青柳 映画ではそこの部分はスパッと切っちゃっていますが、そこは演者としてもう少し間を空けて、余韻をもたせてくださいと言いましたね。でも、怒られてショックを受けていたのもウソじゃないんですよね。
━━鬱に限らずツライ体験は、カメラがあることで軽減されるということでしょうか?
博士 たしかにボクはそういう性格をしていますよね。日記をnoteで毎日書くので、日常が俯瞰的になるし、メタ構造になってくる。どんなことが起きても、これで日記に書くためのネタが出来たと思う。
28年も公開で日記を書き続けていると、何もない日常を送ることのほうに恐怖があるんだよね。