「自衛隊が必要だ」と考えるなら、「いかに市民が攻撃されないようにするか」まで考える必要がある
林 これまで布施さんも私も言ったことは、自衛隊に反対しているから言っているわけでもないんですよね。「自衛隊が必要である」という考え方も当然あるし、むしろ今の日本社会ではそちらのほうが圧倒的多数派です。
でも「自衛隊を必要と考える」「できれば避けたいけれども、自衛隊が軍事力を行使することもあり得る」と考えるのであれば、そこで自衛隊が「いかにそこに住んでいる人々の生命を守ろうとするのか」を考える必要があります。少なくとも軍事作戦を行う場合には。
自衛隊がこれまで出した沖縄戦史の研究は膨大にありますが、それを読むと、そこに一般の人々が住んでいないかのように、日本軍と米軍だけがいて、陣地を構えて戦争をしているかのようなものしかない。しかし実際は、そこに人々がたくさんいるわけです。だから、人々をどう守りながら、少なくとも人々がいるところが攻撃されないような状況を作りながら、どうやって戦闘をするのかが問われます。
少なくとも現在の日本国憲法の下の組織であれば、「何よりも人々の生命を救う」「可能な限り最大限、犠牲を少なくする」という発想が最大原則として貫かれている必要がある。これは自衛隊を肯定する人々にとっても、たぶん共通の認識になり得ることだと思います。
だから自衛隊を肯定するか否定するかという議論とは別に、政治的立場を超えて議論できるし、そういうふうに「まず人々の安全、生命を大事にする」というのであれば、たぶん圧倒的多数の保守派の人々にとっても同意できることでしょうから、そこで議論すべきだと思います。
もちろん自衛隊を否定する人が批判をするのは構わないけれども、そういう議論をやっぱり日本全体できちんとやる必要があるんじゃないか、と。
その大前提として、「ともかく戦争を起こさないための外交努力を、今ちゃんとしているのか?」ということが、まずあります。「戦争を起こさないための前提となる努力」と同時に、少なくとも自衛隊が存在する以上、それが人々の生命、安全を第一に考えるような組織にしていく必要がある。これは本当に党派を超えて、幅広い層の人々がみんなで議論して、そういう改革を一歩一歩やっていく必要があると思います。
布施 そうですね。私もいろんな自衛官の方に取材してきましたが、「天皇のために」なんて言う人は一人もいなかったし、やはり多くの方が「国民のために働きたい」という思いをお持ちでした。特に最近は災害派遣で活躍する自衛隊の姿を見て入隊する若者も多いので、彼らは本当に「いざというときに国民を守るために自分たちは働くんだ」と思っています。
自衛官が入隊のときに必ず行う服務の宣誓文でも、「危険を顧みず身をもって任務の完遂に努め、もって国民の負託(ふたく)に応えます」と宣誓しています。彼らが危険を顧みず任務を行うのも、「国民の負託に応える」という目的があるので、本来それが自衛隊のあり方だと思うんです。
実際に今、「台湾有事」という戦争が想定されていて、先生も本の最後に書かれていますが、そうなった時に自衛隊は米軍の作戦に組み込まれ、事実上その指揮下で動く形になります。
そのときに、米軍から与えられた任務を遂行するのと、目の前の危険にさらされた国民を守るのと、どちらを優先するのか? そういう局面は必ず来る。米軍に与えられた任務を優先し、国民の犠牲を仕方がないと考えるのであれば、かつての日本軍と同じになってしまう。そうならないよう、今の自衛隊にふさわしい教育をしっかりやるようにしないといけないと思います。
“台湾有事”で自衛隊と米軍が想定している作戦とは?
布施 今、自衛隊と米インド太平洋軍が想定しているのが、中国が台湾に侵攻した際に、アメリカ本土から米軍の増援部隊が着くのに3週間ぐらいかかるので、その間何とか持ちこたえて「中国による“占領”の既成事実化を許さない」という作戦です。
具体的には、中国の台湾侵攻の可能性が高まった段階で、南西諸島の島々に自衛隊と米軍の地対艦ミサイルを分散展開して、台湾海峡や東シナ海を航行する中国軍艦船を四方八方から攻撃できる態勢をとる構想です。
そうすると、中国はこれらのミサイルを叩いて無力化しなければ、台湾への上陸作戦を敢行できなくなります。南西諸島が攻撃されるのを前提に、アメリカ本土から米軍の増援部隊が到着するまでの「時間稼ぎ」をするというのです。まさに、南西諸島を「捨て石」にする作戦です。
こういう作戦構想を前提にして、日本政府は台湾有事の際、南西諸島の中でも台湾に近い先島諸島の住民を九州に全員避難させようとしています。
「沖縄戦で軍民混在してしまったのと同じ状況にしないためにも住民の避難が必要」と言う人もいますが、それは住民を守るためというより、先島諸島全体を米軍と自衛隊の作戦拠点として活用できるようにするという思惑が中心じゃないかと私は見ています。