「人間はロボットじゃない。完璧じゃなくていい」
あれから3年。現在、武尊は世界最大の立ち技格闘技団体「ONE」と契約し今年3月23日、さいたまスーパーアリーナでフライ級最強で長年、対戦を熱望していたロッタン・ジットムアンノン(タイ)と対戦。
負けたら引退も覚悟した格闘技人生の集大成と掲げた一戦はわずか80秒でKO負けした。大会後には同じジムの野杁正明が武尊が胸骨を骨折していたことを明かし、万全の状態でなかったことも判明した。激動の渦中だが今、武尊は腹をくくっている。
「あの試合で万全を作れなかったことは自分の実力です。完敗だと思っていますし、負けを受け入れている自分がいます。だからこそ、今は次、ロッタンに勝つためには何をすればいいかを考えています。勝ちたいから技術、コンディショニング…すべてがいい教訓になりましたし、今は負けをプラスにとらえています」
そして、今後の現役生活についての決意を明かした。
「今は、万全の状態でロッタンとやりたいとしか思ってません。僕の人生で心残りを作りたくないんです。今までなら人の目を気にして、あんな無様な負け方をしたら1秒でも早く辞めていたと思う。でも今は自分の気持ちを優先に考えています。
もしもこのまま引退して70~80歳まで生きた時にずっと『万全な状態でロッタンとやっていたら勝てたのか? やりたかったな』と思い続けて生きたくないんです。今は自分のわがままを貫いて、自分の実力がどこまでなのか試すためにロッタンと思い切り殴り合いたい」
武尊の再起には、ネット上で再び誹謗中傷が起きるかもしれない。
「今も叩かれてますけど、もう気にならないですね。今までは我慢してきましたが、自分に正直に生きられていますから、すごく気持ちが楽なんです。昔は、あらゆる人すべてに好かれようと思って行動していました。
でも、それって自分を偽っていたこともあるし、そうなると苦しくなる。素のままでいて素の自分を好きだと思ってくれる人だけと関わればいいと思ってだいぶ楽になりました」
今もパニック障害は完治はしていない。それでも克服へ光をつかんだ。最後に自らの体験を経て精神疾患と闘う人々へメッセージを送った。
「精神疾患になる方は、完璧主義な人が多いかもしれません。自分でこうと決めたらやらないと気が済まない性格の人が多いんじゃないかなと思います。僕はそうでした。
そういう人ほど自分のペース、性格、ライフスタイルを無理やり捻じ曲げると負担が来ると思います。だからこそ自分を大切にしていただきたい。人間はロボットじゃない。完璧じゃなくていいんです」
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取材・文/中井浩一 撮影/村上庄吾