100億円以上のリン酸が含まれている

下水汚泥の発生量は、年間で235万トン(2022年度、国交省調べ)に上る。肥料の三要素の一つであるリン酸が豊富に含まれ、その量は12万トン近くになると見積もられている。

これだけのリン酸が含まれる肥料の原料を輸入しようとすると、今の国際相場なら100億円を優に超える。

国交省は2023年度、下水処理場を対象とした分析調査を行った。その結果を、上下水道企画課企画専門官の末久正樹さんが説明する。

「脱水汚泥などにリン酸が平均で4、5パーセント含まれていました」

脱水汚泥は下水汚泥の水分を絞ったものを指す。下水汚泥に肥料の原料にするのに堪えるだけのリン酸が含まれていると改めて確認できたわけだ。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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ところが、肥料などとして使われる下水汚泥は、全体の14パーセントに当たる32万トンにとどまる。全国に約2200カ所ある下水処理場の多くは、下水汚泥を廃棄物として処理業者に引き取ってもらっている。

「地域によって上下しますが、基本的にトン当たり1万円から2万円程度の処分費がかかります」(末久さん)

処理場によって下水汚泥の形状が違うので単純に計算できないが、下水汚泥の処分に年間、数千億円を超える公費が投じられていることになる。なお、下水汚泥の相当量はセメントや下水管といった建設資材としてリサイクルされている。

とはいえ、下水汚泥は建設資材に向くわけではない。リンを豊富に含むため、混ぜ過ぎるとコンクリートやセメントが固まりにくく、強度不足に陥りやすくなる。使える資源に処分費を払い、しかも86パーセントが肥料にされないというのは、実にもったいない。

文/山口亮子 サムネイル/Shutterstock

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