「そもそも、これまでが安すぎだったって感覚が農家としてはある」
備蓄米が放出されればコメの値段は安くなるのかという疑問について、藤平さんはこう言い切る。
「農水省がまず初回は15万トン出すって言ってるけど、あれを全部市場に流したって1ヵ月持たないよ。だから1ヶ月後にコメがなくなればまた同じことだよ。仮に放出した直後にいったん少し価格が下がったとしても、すぐに戻ると思う。現に農水省の放出宣言を受けてから転売ヤーの中国人は『さらに60キロあたり2000円上乗せして買う』って言ってきてるくらいだから。
備蓄米が放出されてもすぐになくなって逆に値段が上がると踏んでるから、さらに高くても仕入れようとしてるんだろうね。15万トンじゃみんなにコメはいきわたらない。少なくともその程度の量の備蓄米の放出でコメの値段が下がり続けるというのはないと思うよ。今後も現状価格かそれより上を推移すると思う」
現場のコメ農家からすると、「令和のコメ騒動」以前の価格がそもそも適正とは言い難かったという。
「そもそも『これまでが安すぎだった』って感覚が農家としてはあるから、今ぐらいの金額で推移してくれないと潰れちまう。俺は25年間コメ専業でやってるけど、その25年間で1億円以上のマイナスだよ。銀行に借入してどうにかして、赤字でもやめずにやってる。ここで始めた頃から周囲には『コメ農家なんてすぐに潰れる』って言われて、それで意地で潰さずやり続けた。子どもたちには『いい加減にやめてくれ』って言われてるよ。続けるだけ借金が増えるんだから。
そのうえ2000円だった肥料がここ数年で5300円にまで値上がってるし、ガソリン代の値上がりもすごい。コンバインだって1600万円が2000万円くらいになってる。それが一生使えるわけじゃなくて7年とかで入れ替えるわけだからさ」