「コメの価格が高騰しても続けていきたいという気もない」

参入障壁を引き下げ、コメ農家の成り手を増やすのは、いうまでもなく農業政策を担う国の仕事である。栃木県内の別のコメ農家の70代男性も、こう嘆く。

「ずっと建設業と兼業で農家をやってきたけど、もう何年かしたら辞めようかと思っています。セガレもやりたがりませんし、私もそれでいいと思っています。コメはJAに持って行っていますが儲かる儲からない以前の話ですからね。私の場合は1ヘクタールにも満たない小規模で、利益はまったく出ません。

何のためにやっているのかと聞かれれば、私が長男で父親が亡くなった時に誰も継ぎたがらず、仕方なく継いだという理由で今も続けています。高くコメが売れるのに越したことはないと思っていますが、そもそもコメの価格が高騰しても続けていきたいという気もないです。

もう15年以上やっていますよ。私が辞めたあとは、ここの田んぼを知り合いのコメ農家の人に見てもらうように頼んでいます。お金を払ってまで借りたいという田んぼでもないので、こちらから頼んで面倒見てもらう感じですよ。

近くに農地を拡大したいって人がいれば田んぼだけでなく畑も一緒に面倒見てもらうこともできるんですけどね。なかなか外から入ってきて借りたいなんて人はいませんから。かといって放置しておいたらすぐ草がボーボーになりますし、それは色んな人に迷惑かかっちゃいますから」

写真はイメージです
写真はイメージです

コメ農家の大半は高齢化し、疲弊している。主食の生産現場をここまで疲れさせ、“絶望工場”に貶めたのは誰なのか。栃木県内の別のコメ農家の男性にはその犯人の目星がとうについていた。

「コメ高騰なんて完全に政府の政策のミスだと思うよ。JAも農家から得たコメを右から左に動かしてそれで手数料得てるわけだけど、昔からの悪習もあるんだよね。昔は各集落からJAに1人雇ってもらう習慣があったんだけどさ、そいつに『俺の顔立ててよ』なんて言われると、コメにしても野菜にしてもまったくJAに持って行かないってわけにもいかないでしょ。

コメ農家が越境して他のJAに持っていくことはできないけど、別の業者に持ち込んで100円でも200円でも高く売りたいって人はたくさんいると思うよ。だって、ただでさえ利益がないんだから。ただ、付き合いとかしがらみもまだあると言えばあるんだよな」