「68年間の人生の中でこんなに潮が引いたのは初めて」

海岸沿いの道には、津波が押し寄せ一気に引いていったのか電動歯ブラシ、テレビのリモコン、イスといった家財道具が散らばっている。6日になって大勢の人が避難所から自宅に戻り、片付けに精を出していたが、幸いなことに同地区では犠牲者は確認されなかったという。近隣の男性住民が語る。

海岸沿いに落ちていたテレビのリモコン(撮影/集英社オンライン)
海岸沿いに落ちていたテレビのリモコン(撮影/集英社オンライン)
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「地震の揺れは相当大きいものでしたが、その後の行動についてはわりとみんな早かったと思います。私もすぐに高台まで避難しました。やっぱり頭の片隅に東日本大震災の津波の映像が残っていて、すぐにあのイメージに繋がったので早く動けたというのはあります。

津波がくる可能性があると言われてもこの辺では慣れっこになってしまっている人もいるのですが、今回の揺れ方はひどかったので、みんな避難したんだと思います。私の家も一切合切ダメになってしまいましたが、私が知る限りはこの地域で死亡者がいるという話は聞いてないです」

40人近くが身を寄せ合い生活しているという川上本町集会所を訪ねてみた。年配の男性が左腕を三角巾で吊り、水を汲もうとしていたので、手伝いを申し出ると「こうしたら持てますから大丈夫です」とかがんで水を持ち上げて見せてくれた。右頬の皮膚がめくれたように剥がれ、生傷もまだ癒えておらず、改めて過酷な状況だったことを物語っていた。

津波の爪痕(撮影/集英社オンライン)
津波の爪痕(撮影/集英社オンライン)

同集会所の代表を務める町会区長の辻一(かず)さん(68)は津波の被害についてこう語った。

「俺も今回の地震の後、いろんなルートを車で回ってみたけど、津波の被害が一番ひどいのはここらだって感じてはいるね。ここまで大きな津波は生まれて初めてです。昔は地震もそんなになかったし、ここは雪も少なくて、過疎化は進んでいるけど住みやすい場所だって俺は思うてるけどね。

ここらは漁師の人間が多いから波の動きは読めるんだけど、今回のは『おい、今までの波の引き方と違うぞ』という波だった。高台から見とったけど1波よりも、ぐーっと来た2波のが大きかったね。引き波が海岸線から300メーターくらいガーっと引いていった。干潮でもここまで潮が引くことはないし、とにかく68年間の人生の中でこんなに潮が引いたのは初めて見ました」