激しい雨の中、マンションの入口で菅の帰宅を待ち続けた
夜になり、国会記者会館の会議室で記者の河野が頭を悩ましていると、取材班のメンバーがあるネット記事を見つけた。自民党の菅義偉が7日に仙台市で講演し、持論のライドシェア解禁について語ったというニュースだった。
菅はこの日、仙台市へ出張していたのだった。国会内を探しても、取材できるわけがなかった。中国地方の情報網を強みとする中国新聞にとって、東北地方の情報はなかなか手が届かない。「出張予定の情報が入っていれば、菅に直撃できたのに」。出張の情報を得られていなかったことを悔やんだ。
だが、まだチャンスがあるのではないかとも感じてきた。ネット記事を見ても、何時から何時まで講演したかは書かれていなかった。もし午後に講演して、仙台市から新幹線で自宅に帰ってくるとすれば、自宅で待っていれば、菅に直接取材ができるのではないか。
「やれることは全てやろう」。
この東京出張の取材で心がけていた言葉が頭に浮かんだ。「菅さんの自宅に行ってみます」。荒木にそう告げると、荷物をまとめて出発した。国会記者会館の周辺でタクシーを拾い、横浜市へ急いだ。この日の夜は東京に台風が近づき、激しい雨が降っていた。
もし河野が菅の自宅に到着するより、菅が自宅に帰る時間が早ければ、そのまま自宅から出ない可能性が高く、取材は難しい。高速道を走るタクシーの後部座席で焦る気持ちを募らせていた。約1時間をかけて到着すると、マンションの入り口で菅の帰宅を待ち続けた。
だが、菅の車が戻ってくることはなかった。やはり菅は仙台出張から既に帰宅したのかもしれない。「やれることはやった」。そう自分に言い聞かせたものの、結果が出なかったことへの悔しさも残った。8日は菅への直撃に全力をかけることにした。