「案里って何者なのよ」
――それが本当に渡した証拠になるのかってことですかね?
「そんなことないよ。なんも知らないもん」
――検察側はそれが選挙買収に使われたのではないかとみています。
「そんなん冗談じゃないよ」
投げ返された言葉に勢いがなくなった。「幹事長3300」と書かれたメモの存在を問うた瞬間、確かに二階は口ごもった。あれは何を意味するのか─。和多は質問の角度を変えてみた。
――幹事長には日頃から自民党の政策活動費が党勢拡大の目的などで支給されていると思います。そうした党勢拡大名目で河井氏側に現金を提供したこともないですか?
「そんなことは全然記憶にないねぇ」
――党勢拡大名目でも現金提供した記憶はない?
「うん」
――では、当時の河井夫妻への1億5千万円の提供を誰が決定したのですか。当時幹事長だった二階さんが決定されたのではないですか。
「そんなことするわけないじゃない。河井案里って一体何者なのよ。何者なのよ」
――河井夫妻の事件に絡んで、二階さんが検察から聴取されたこともないですか。
「あるわけないじゃない。そんなことあるわけない」
特に慌てる様子も、かといっていぶかるそぶりもなく、二階は淡々と否定した。そうして繰り返された「案里って何者なのよ」との言葉。「広島を揺るがした大事件も、きっと永田町ではもう過去の出来事なんだろうな」。和多はなんだかやるせない気分になった。
疑惑の当事者に直撃取材を始めた初日は、二階、菅、甘利の3人のうち2人の取材ができた。しかも甘利が100万円の提供を認めるという想定外の成果も得られ、上々のできだった。取材班が拠点とした国会記者会館の会議室では、記事の出稿作業が深夜まで続いた。