「買収原資か メモ押収 河井元法相宅で検察」

このスクープは、2023年9月8日の中国新聞朝刊1面のトップを飾った。記事は以下のとおりだ。

「買収原資か メモ押収 河井元法相宅で検察」「総理2800 すがっち500 幹事長3300…」の大見出しが躍った。「決別金権政治」取材班の署名記事も脇に載せ「政権中枢の闇 解明を」と切り込んだ。

2019年7月の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、検察当局が20年1月に河井克行元法相(60)=服役中=の自宅を家宅捜索した際、当時の安倍晋三首相をはじめ安倍政権の幹部4人から現金計6700万円を受け取った疑いを示すメモを発見し、押収していたことが7日、関係者への取材で分かった。

検察当局は、元法相が広島県内の地方議員や後援会員に現金を配り回った買収の原資だった可能性があるとみて捜査していたという。

関係者によるとメモはA4判。上半分に「第3  7500万円」「第7  7500万円」と書かれ、それぞれ入金された時期が付記されている。その下に「+現金6700」と手書きで記され、さらにその下に「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」と手書きされていた。

河井克行の自宅から押収されたメモの記載内容 書籍より
河井克行の自宅から押収されたメモの記載内容 書籍より
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「第3  7500万円」と「第7  7500万円」の記載について東京地検特捜部などの検察当局は、自民党本部が参院選前の19年4~6月に克行氏の自民党広島県第三選挙区支部と妻の案里氏(有罪確定)の党広島県参院選挙区第七支部に振り込んだ各7500万円(計1億5000万円)と分析。

「+現金6700」は1億5000万円に加えて6700万円が現金で提供され、「総理 2800」などの記述は内訳を記しているとみている。

「総理」は安倍首相、「すがっち」は菅義偉官房長官、「幹事長」は二階俊博自民党幹事長、「甘利」は甘利明党選挙対策委員長=いずれも肩書は当時=で、数字は提供した金額を万円単位で示しているとみて克行氏を追及したが、捜査は進展しなかったとみられる。

安倍氏ら4人と克行氏の主な政治団体や政党支部の政治資金収支報告書には、このメモに記された資金のやりとりは載っていない。公選法違反(買収)や政治資金規正法違反(不記載)に当たる可能性もある。

安倍氏は昨年7月の参院選の街頭演説中に銃撃され亡くなった。7日の中国新聞の取材に対し、二階氏は現金提供を否定した。

一方、甘利氏は克行氏に100万円を提供したことを認め、選対委員長として他の候補にも一律に配った陣中見舞いだったと説明した。菅氏の事務所には同日午前に取材を申し込んだが夕方までに回答はなかった。

克行氏は、21年10月に懲役3年の実刑判決が確定し、栃木県内の刑務所で服役している。

克行氏を巡っては、現金を配った地方議員や後援会員の名前や金額を記したリストを自宅に保管。検察当局が家宅捜索で押収したことから、100人に計2871万円を渡した前代未聞の買収事件の摘発に発展した。

買収の資金に関し克行氏は自身の公判で、党本部からの1億5000万円ではなく「手持ち資金を使った」と供述していた。

中国新聞は、政権中枢から提供された裏金が買収に使われた疑いがあるとの情報を得て、関係者への取材を続けてきた。(「決別金権政治」取材班)〈2023年9月8日〉