なんとハードルの高い取材になることか

河野(中国新聞の記者)が東京入りしたのは2023年9月6日の午後だった。荒木から事前に電話があり、メモに書かれていた菅、二階、甘利の3人に直撃する役目を担うことになっていた。「なんとハードルの高い取材になることか」。羽田空港に向かう飛行機内ではあまり希望を持っていなかった。

東京支社時代の経験から言って、多忙な国会議員に直接取材するのは簡単ではないと分かっていた。普段から出入りしている顔なじみの記者でなければ、事務所に面会の約束を取ろうとしてもなかなか取れない。

まして菅、二階、甘利はいずれも大物といっていい国会議員だ。会合の前後でつかまえられたとしても、「1対1」になれる場面をつくるのは困難が予想され、メモの存在と現金提供の事実を確認することは至難の業だと思っていた。「この取材は駄目元であり、取材できなくて当然」と考えると、逆に気が楽になっていた。

二階俊博(自民党HPより)
二階俊博(自民党HPより)
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飛行機が羽田空港に着くと、国会記者会館にある記者室に向かった。そこには東京支社の中川が険しい表情で待っていた。明日から一緒に菅、二階、甘利への直接取材を試みることになるメンバーだ。中川もきっと河野と同じことを感じていたのだろう。「どうすればいいのだろう」。ため息をつきながらも、どこかわくわくした感情がわいていた。

国会では1月から6月にかけて通常国会が開かれる。予算案や法案の審議のため、国会議員が本会議や委員会に出席している。この通常国会が終わると、多くの国会議員が地元に帰り、国会にあまり姿を見せなくなる。9月上旬は国会議員会館の各議員の事務所には秘書がいるだけで、議員がいないことが多い。

故人となっている安倍を除き、メモに書かれていた3人の地盤は菅と甘利が神奈川県、二階が和歌山県。もし3人とも地元にいる場合はどう取材すればいいのだろうか。中川といろいろ考えた末、まずは3人の国会議員事務所を訪ねてみることにした。

9月上旬はちょうど内閣改造と自民党役員人事が行われるというニュースが永田町を駆け巡っていた。そういう取材の一環だと思われるタイミングだったため、怪しまれずに3人の予定を聞き出せるかもしれない。駄目元で中川と3人の国会議員事務所を訪ねてみた。

3人の事務所を回ってみると、唯一、甘利の日程だけヒントを得られた。甘利の事務所を訪ねると、翌7日に党本部で、自身が責任者を務める党の会合に出席することが分かった。その会合に出席するタイミングで甘利には直接取材できる可能性が出てきた。ほかの2人の事務所からは情報を全く得られなかったが、一歩前進したような気がした。