GDPを0.29%押し下げる可能性…渡航自粛による経済影響

今回の渡航自粛呼びかけが、単なる「注意喚起」にとどまらないことは、数字を見れば明らかだ。日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2025年12月の中国人訪日客数は33万400人で、前年同月比45.3%減となった。

一方、全体の訪日客数は361万7700人と3.7%増加しており、中国市場だけが大きく落ち込んでいることが分かる。かつて約30%を占めていた中国人観光客のシェアは、現在21%台まで低下している。

こうした減少が日本経済に与える影響は小さくない。

野村総合研究所の試算によれば、中国・香港からの訪日自粛が1年間続いた場合、日本の消費額は約1兆7900億円減少し、GDPを0.29%押し下げる可能性があるとされている。これは一企業や一地域の問題ではなく、国全体の景気に影響する規模だ。

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最近では、春節を前に日本への航空便の減便や無料キャンセル期間の延長も相次いでいる。中国国際航空など複数の航空会社が、2026年秋まで柔軟な対応を続ける方針を示しており、旅行需要の冷え込みは長期化する可能性が高い。

こうした動きは、現場に直接響く。観光地では「予約のキャンセルが相次いでいる」「団体客が戻らない」といった声が上がり、特に中国客への依存度が高かった地域ほど打撃は深刻だ。

コロナ禍からようやく立ち直りつつあった宿泊業や飲食業にとって、今回の動きは追い打ちとなっている。

訪日自粛呼びかけは、決して「今回が初めて」ではない。むしろ、中国政府は10年以上にわたり、同じような手法を繰り返してきた。

象徴的なのが、2010年の尖閣諸島沖中国漁船衝突事件後だ。

当時、北京市の観光当局は旅行会社に対し、事実上の訪日自粛を口頭で要請したと報じられた。その後、中国人観光客は急減し、日本の観光地は大きな打撃を受けた。同時期にはレアアースの輸出制限も行われ、経済面から圧力をかける姿勢が鮮明になった。

国際社会からも批判される「中国の常套手段」

2012年の尖閣諸島国有化後も、状況は同じだ。中国各地で反日デモが発生し、訪日旅行の自粛が広がった。その結果、中国人訪日客が最大で約30%減少した時期もあり、観光地は深刻な影響を受けた。この時期の影響はGDPを約0.3%押し下げる規模だったという試算も出ている(野村総合研究所)。

こうした経済圧力は、日本だけに限らない。2017年には、韓国が米国製のミサイル防衛システムTHAADを配備したことに反発し、中国は団体旅行を事実上禁止した。その結果、訪韓中国人客は約半減し、韓国経済にも大きな打撃を与えた。

このような経済圧力は中国の“いつもの手口”である。国際的にもAustralian Strategic Policy Institute(ASPI)や国際経済連携推進センターの報告書で、中国が政治的な不満を持った相手国に対し、観光や貿易を使って圧力をかける手法を「常套手段」と位置づけている。

「治安」「安全」「国民保護」といったもっともらしい理由を掲げながら、実際には外交カードとして経済を使っている。今回の動きも、過去の延長線上にあることが分かる。