ストレスの質的変換をはかる

現代的な教育論やコーチング理論では、「プレイを楽しむ」とか「褒めて伸ばす」ことが推奨されています。私が高校時代に経験した、しごきのような指導法は、今の時代は許されません。

しかし現代的なコーチング理論と、伝統的な指導法の両方を知る私には、どちらがよい教え方なのかわかりません。

世の中を生きていくのは、大変なことです。熾烈な競争を強いられ、競争に伴うストレスが常に襲ってきます。2012年から、武道は中学校の必修科目となりましたが、その目的のひとつは、「生きる力の育成」でした。社会に参入すれば、競争は避けられません。競争社会における「生きる力」の本質とは、競争に対抗できる能力、つまり「競争心」と「ストレス耐性」であると私は考えます。

「ストレス」といえばネガティブなイメージを持たれがちですが、必ずしも有害なものではありません。ストレスは成長の触媒となり、コンフォートゾーンからその人を押し出し、困難に直面することをうながします。

デジタル時代に「コミュ力」「ストレス耐性」を上げるなら剣道が一番⁉︎ 真にアナログな武道に学ぶ「生きる力」の本質とは_2

そしてその困難を乗り切ることで、心の復元力や問題解決能力、感情をコントロールする感情的知性が養われていくのです。

ストレスを「脅威」ではなく「挑戦」と捉える考え方は、「ユーストレス(よいストレス)」という言葉にも見ることができます。「よいストレス」という概念は、あるレベルのストレスが、個人のモチベーションや集中力、パフォーマンスを高めることを示唆しています。

筋肉トレーニングでは、重いバーベルを持ち上げることで、筋肉にストレスや微細な損傷を与え、筋肉を徐々に強く、弾力的にしていきます。武道の厳しい稽古も、心に負荷をかけ、微細な損傷を与えることで、心の弾力性を鍛え、ストレス耐性を植え付けていきます。

一対一のコンバットである武道の稽古は厳しいもので、道場には常に緊張感が漂い、ストレスフルなことが次々と起こります。そしてそのストレスフルな体験が、ストレスに耐えるノウハウを教え、精神的なスタミナをつけてくれるのです。

「どの程度のストレスを、どのタイミングで与えればよいのか?」。これは非常に難しいところで、私を含めた指導者側の問題となってくるのですが、それは改めて考察することにします。