解体は1日5頭が限界
野崎さんの1日はなかなかハードで、この日は5キロ台のメスのキョン2体とオスのキョン1体、加えて53キロもの巨大なメスのイノシシ1体の解体を行なった。
「猟師さんは前日に仕掛けた罠を早朝に見回りし、早いときは朝6時半くらいに電話してくるんです。1日の受け入れはだいたい昼までで、午後は解体作業に回す、という流れがほとんどですね。
キョン1頭につき解体時間は30〜40分、イノシシは40分ほどで、解体は1日5頭が限界です。解体作業の合間には、2日間熟成させた個体を精肉する作業に取り掛かります」(野崎さん)
野崎さんは、解体したキョンの心臓で異常のないものは自らの手法で干し、ジャーキーにして飼い犬のシベリアンハスキーに与えているという。「犬に安全なドッグフードを与えたい」という野崎さんは、いずれキョンの肉を使ってドッグフードを開発したいと展望を語っていた。
最後に、千葉県自然保護課の担当者は、今後のキョンの防除計画について次のように述べた。
「千葉県から分布が広がったとされる茨城県とも、キョンの目撃情報などを共有しています。また、千葉県内には現状17市町にキョンが分布していますが、これ以上の市村への広がりを防ぐために、市町の外周に罠を設置しています。
さらに、一般の方を対象とした千葉県有害鳥獣捕獲協力隊を去年から公募し、キョンをはじめとした有害鳥獣捕獲のための隊員を募っています。多角的な取り組みを行うことで、キョン殲滅を目指しています」(千葉県自然保護課担当者)
だが、原田さんは「罠の設置や協力隊の公募以外に、もう一つ大事なことがある」とする。
「イノシシや鹿のように誘引物質が明らかになっていないため、キョンを確実に誘き寄せる方法がありません。そのため、繁殖に対して捕獲率が低く、数が追いついていないのが現状だと思います。
本当に殲滅を目指すならば、罠の設置や人員増量だけでなく、生物学研究者によるキョンの誘引物質の研究にも本腰を入れるべきなのではと思います」(原田さん)
基本的にキョンは1年を通して繁殖するとされており、この猛暑の中でも、お構いなしに増え続けている。千葉県から茨城県、埼玉県にまで分布を広げたキョンの繁殖を、止めることはできるのだろうか。
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取材・文・撮影/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班