「人よりもキョンを見ることのほうが多い」
千葉県によると、キョンの県内推定生息数は2012年の2万7900頭に対し、2022年には7万1500頭と3倍にも膨れ上がっている。
名前も見た目もかわいらしい印象を受けるキョンだが、その鳴き声はかなり不気味だ。千葉県いすみ市の山間に20年ほど住む75歳の女性は、キョンの実害についてこう証言する。
「20年前はキョンなんて名前も知らなかったけど、10年前くらいから頻繁に見かけるようになりました。
最初は夜間だけの出没がそのうち昼間も見かけるようになって、昼夜関係なく『ギャー!』って鳴くし、夜にどこかで1匹が『オ゛―ッ!』と雄叫びをあげると、それに応えるようにあちこちで鳴き声合戦が始まるの。本当に気が滅入っちゃうわ」
物理的被害もある。
「庭のお花や広葉樹など何から何まで食べ尽くしちゃうの。2年前に家の垣根の内側に網を張ったけど、網だけだと角で押されちゃうから、支柱で強化したりして……まるでゾンビを家に侵入させないためのバリケートですよ」(同)
被害は山間の民家だけではない。いすみ市にあるゴルフコース付近の新興住宅地に20年住む男性も頭を悩ませている。
「今朝も駐車場でキョンの親子を見ましたよ。キョンが入らないように補強した庭の外周の柵や網などもピョン!と乗り越えて敷地内に平気で入ってきちゃうんですよ。みかんの葉や実も全部食べちゃうけど、賢いみたいでシクラメンとかヒガンバナとか有害成分を含む植物は食べないんだ」
男性によると、夜中にあちこちから響くキョンの鳴き声は、「まるで私たちが侵入者で、『出てけ、出てけ!』と言われてるようで怖い」という。
この新興住宅地に別荘を持ち、週末だけ帰ってくるという50代女性も「昼間はこの住宅地は人通りが少ないから、人を見るよりキョンを見るほうが多いくらいですよ」と苦笑する。