「あの日の夢」が現実になっていく
親子で夢中で努力するうち、ついに本当に世界への門が開くときがきた。高校2年生で、未来のトップアスリートを発掘する「J-STAR」プロジェクトに合格。
「中東のバーレーンで開催されたアジアユースパラ競技大会に出たんです」折しも、新型コロナの影響下にあった2020年。
「初めての海外で不安だから母と一緒に行きたかったんですけど、人数制限があって行けなくて…。大会は出場選手が少なくて、別のクラスの人と同じレースでした。タイの選手の車輪を叩く音が強くて、ゴールでその音の迫力に負けて、すごい悔しかった」。
メダルは逃したものの、世界のトップ選手と最後まで競えたことが大きな自信になったという。
国内大会では破竹の勢いで連戦連勝。2023年7月には、YouTubeで最初に魅了された世界選手権に出場した。「嬉しかったです」結果は100m 5位、800m 6位。
「100mは、スタートからのピッチを早く上げればよかった。ゴール地点で力を抜かなければ、4位内に入ったかも」と分析。
「800mは3位に入っていたけど、隣に目線が行って集中を切らしたら順位が徐々に落ちてしまいました」特に苦手なのがオープンレーンに入るところだという。「自分からどう入ればいいのか、特に選手が増えるほどわかりづらくなる。レース中に後ろを向くのが自分に合わないので…」と、今後の課題を挙げた。
3ヶ月後の杭州アジアパラ競技大会では、苦手なオープンレーンでの駆け引きでトラブルが起こった。「800mのカーブ地点で、追い越そうとする中国選手とレーサーがぶつかったんです。私は中国選手の進路を妨害したと判定され、ゴール後に失格となりました。こんなパターンもあるのかと思って。次からは繰り返さないようにしたいです」と、前を向く。
まだ初めて経験することも多く、どんなことでも糧にできる強さがある。
「メダルを獲得するために全力で走る」
「やっぱり私は競技場が大好き! 競技場がなかったら生きていけません。毎日競技場で走りたい。陸上を始めたころは、競技場のある家があったらいいなって、けっこう本気で親に言ってました」。
車いすレースに魅せられた小野寺萌恵の目標は「パリパラリンピックで100メートルのアジア記録18秒46を更新すること」そして「メダルを獲得するために全力で走ること」だ。
尚子さんは「大会動画を何回も見て勉強しています。萌恵に説明しても本人が納得するまでに時間がかかるんです。感覚が強くて100%納得できないとやらないので」と話す。陸上経験のない母だが、全力で娘を支え続けている。
世界の頂点を目指す20歳の娘と母の、夢への挑戦まだ始まったばかり。本番はこれからだ。
取材・撮影/越智貴雄[カンパラプレス]