さっさと所得税減税をしておけば

 ──株価は上がっても生活が楽にならないという不満をよく耳にしますが。

株式市場だけが儲かって、株を持っている人はいいけど、持っていない人の懐は温かくならないという話ね。これはものごとには順番があるということですよ。株価が上がると次に少し遅れて雇用者所得が上がることがわかっている。

株価というのはどちらかというと資本家サイドの話だから、そちらが先に上がるだけ。就業者数とか雇用所得というのは後から上がる。それで待っていると、株価が上がって半年くらい良い状態が続くと、まず名目賃金が上がる。いまはインフレ率が高いけれど、そのうち名目賃金がインフレ率を追い越すから実質賃金が上がるようになって、失業率が2.5よりちょっと下くらいでずっと張り付く。こういう状況になるともう賃金はグーンと上がっていくよ。

だから、ものは順番で、株価上昇はその最初に出てくる現象なんだ。だからこれは悪いことでは全然ない。それを見て「俺の給料は上がっていない」なんて文句は言わないで、もう少し待って失業率が低位になって張り付く状況になれば、名目賃金は上がり始めるよ。株価はちょっと先に動くだけで、マクロ全体としては悪い話ではない。

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──じゃあ落ちる時もそういう順番で落ちていくということですか。

資本家のほうが先に下がるのが一般的なんだよ。雇用労働者の賃金は下方硬直性があるのでけっこう保護される。資本家の配当所得とかはすぐ下がるけどね。

──給料というのはそう簡単に下げられませんからね。

そう。だから労働者は賃金が上がるのも遅いけれど、下がるのも遅い。一般的にはそういうことだよ。下がらなかったことを忘れて、俺の順番はまだか、上げる時は先にしろと言う人がけっこう多いんだよ。

資本家と労働者で言うと、資本家はリスクをとるから上がるのも早くて下がるのも早い。労働者のほうはリスクをとらないから上がるのが遅れるけど下がるのも遅い。
 

──なるほど。非常にわかりやすいです。だけど、上がるのを待っていたらお預けを食うこともあるのでは?

株価だけ上がって後の人はお預けというのがいちばんまずいパターンだね。そういうこともあるにはある。でも考えてみれば、自分はお預けでも日本経済全体としては儲かった人がいるのは悪いことじゃない。だから他人のことをあまりやっかまないほうがいいよ。

なにか「俺が俺が」とか「俺はまだか」という人が多いけれど、経済全体として潤ったのであれば、別に他の人が潤ったって、自分が損しなければいいじゃないかと私なんかは思うけどね。
 

──今後の見通しとしてはとりあえずこのまま行けそうですか。

タイミングを逃さないことだね。たとえばさっさと所得税減税をしておけば、2023年の年末調整でみんな心も懐も豊かになれたのに、6月までお預けを食らったからね。ああいうのはよくないんだよ。やることが決まっているのならタイミングを逃さずにズバッとやるのがいいに決まっているんだから。

あとから一言

2月22日、東京株式市場でバブル時代に記録した史上最高値(3万8957円44銭)を更新して3万9156円97銭に達した。史上最高値の更新は34年ぶり。(2024年1月19日)