「非常識な勝利」に必要なもの

佐々木 『VIVANT』は日本のテレビドラマの常識を覆してくれましたからね。映画並みのスケールで海外にも通じるスペックだった。いつもどおりのテレビ局のルール、仲間同士の協調性や平等性を守っていたら決して生まれなかったドラマだった。

福澤 ぼくは日本のドラマに危機感を持っていたんです。人口5000万人の韓国は世界に向けてドラマを発信し、大ヒットしている。日本の場合は1億2000万人に向けてつくれば、それなりにやっていけたから、型どおりでスケールが小さなドラマばかりになってしまっていた。

それにドラマ制作にはお金がかかります。1週間、雨が降り続いて撮影が延びたらそれだけで、数千万円の金額が上乗せされる。10話で4億円だったはずなのに、すぐに4億5000万円、5億円と予算が膨れ上がってしまう世界です。

そこで予算を抑えるために、他局は下請けの制作会社に任せるになったんですが、そこに執心すると、こじんまりとしたドラマしかできないし、テレビ局から制作のノウハウも失われてしまう。悪循環でしかないわけです。ならばここで一発、世界に向けて勝負しようと制作したのが『VIVANT』でした。

テレビドラマの常識を覆したドラマ『VIVANT』
テレビドラマの常識を覆したドラマ『VIVANT』

佐々木 『VIVANT』は、まさに非常識が生んだドラマでした。従来のテレビ業界の常識に囚われていたら決して生まれなかったし、あれだけ注目を集めることもなかった。福澤さんという突出した個性の持ち主がいたからこそ、常識を打ち破り、かつてないスケールのドラマをつくれた。

ラグビーでも15人全員が決め事どおりに動いていたら、想像を超えるプレーは生まれません『VIVANT』を見てあらためて、ひとりの思いがけない発想を、みんなの力を結集して実現できるチームこそが、常識を超えられるのだと確信しました。

――常識を超えたと言えば、福澤さんは3年生のときに大学選手権で優勝し、日本選手権では社会人王者のトヨタ自動車(当時)に勝って、日本一になられていますね。


福澤 正直、ぼくも勝てるとは思っていなかったんです。試合前に上田さんがレフリーの傾向を分析して、トヨタ自動車にペナルティが増えるだろうからチャンスがあると話していたけど、半信半疑で聞いていたんです。だって社会人王者に勝てるとは思わないじゃないですか。

トヨタ自動車に勝利し、福澤監督がラグビー雑誌の表紙に
トヨタ自動車に勝利し、福澤監督がラグビー雑誌の表紙に

佐々木 当時のトヨタ自動車はスクラムが強かった。トヨタの選手もファンも、まさか慶應が勝つとは思っていなかっただろうね。

福澤 でも、試合がはじまると不思議なくらいに上田さんの言っていたとおりの展開になった。ぼくらも試合の途中で「いけるかも」とその気にさせられて。

佐々木 なるほど。監督が周囲をその気にさせて、非常識な勝利を実現させる。その意味では、福澤さんが大学ラグビーをとおして得た経験も『VIVANT』に息づいているのかもしれませんね。

ドラマ『VIVANT』大ヒットの背景に大学ラグビーでの経験あり!? TBS佐々木社長、『VIVANT』福澤監督が考える究極の組織論「非常識な勝利に必要なもの」_7
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構成/山川徹 撮影/村上庄吾

前編「気を抜いたら慶應に本当に殺されるぞ!」メディア界のOBが明かす“絶対に負けられない”ラグビー早慶戦今昔秘話<TBS佐々木社長×『VIVANT』福澤監督> はこちら