「確率じゃない。可能性にかけよ」国境なき医師団・日本事務局長が就職留年中、悩みぬいて紙に記した「究極の夢」
スーダン、シリア、イラク、イエメン…… 。世界の紛争地区から避難する人々は、着のみ着のまま逃れてくる。そして、ようやく逃れてきても、家はない。でも、命はある――。そんな世界一過酷な場所で、生き抜いている人々を目の当たりにしてきた国境なき医師団 日本事務局長である村田慎二郎氏が実体験を記した。『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』から一部抜粋、再構成してお届けする。
「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと#1
確率じゃない。可能性にかけよ
当時は、「○○大学がいい」「○○大学はイヤだ」とこだわり、わざわざ浪人までする学生が、いまよりもザラにいた。だが、「自分の人生でどういう仕事をするか」ということは、「どの大学に入るか」よりも、もっと重要なことのはず。
それなのに、「就職氷河期なんだから、ひとつか2つ内定をもらったら上等」とあっさりと将来を決める人が自分のまわりに多かった。サークルであれだけ魅力的だった先輩たちでさえ、就活にすっかりやられているのを見ると、悲しかった。そんなことを杉村さんに伝えたら、こう返ってきた。
「かっこ悪いぞ、ムラシン!! 他人のことはどうだっていいんだよ。他人は他人、自分は自分! 他人は自分の鏡なんだ」
そのとおりだと思った。自分自身の人生をなんとかしなければいけないのに、他人のことをとやかく批評している場合ではなかったのだ。
それから数か月が経(た)ち、外資系のIT企業の営業部門への就職を僕は決めた。学歴や性別、年齢が一切関係のない、実力で評価される職場。自分がきたえたい対人力やソフトスキルを磨ける職種。夢の実現の最初の一歩として選んだ会社だった。
その際、内定の報告を杉村さんにしに行くときに持参したのが、冒頭で紹介したA4の一枚の紙だった。
「自分が一票を入れたくなるような理想の政治家になりたい」という、あいまいさが残りつつも純粋でまっすぐな当時の僕の志。
「成功確率でいえばほとんど0パーセントに等しいと思うんですけど、でもやってみたいんですよね―」少し弱気になりつつ、はずかしがりながらこう伝えたところ、強いまなざしでまっすぐ僕の目を見て杉村さんはこう言った。
「確率じゃない。可能性にかけよ」
最後にこの強烈な言葉を受け取り、僕は社会に出ることになった。僕にとっての「自分の究極の夢」と、その実現のための最初の手段が決まった瞬間だった。
文/村田慎二郎 写真/shutterstock
#2 日本のような国にいて、夢を追いかけないのはモッタイナイ…紛争地から日本の若者へのメッセージ
「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと
村田慎二郎 (著)
2023/10/17
¥1,870
232ページ
ISBN:978-4763140845
人生でもっとも大切な「命の使い方」とは?スーダン、シリア、イラク、イエメン……人道支援の現場10年、ハーバード大学大学院で学んだ著者がいま伝えたいこと。
世界の紛争地区、避難する人々は、着のみ着のまま逃れてきます。そして、ようやく逃れてきても、家はない。学校もない。でも、命はある――。そんな世界一過酷な場所で、生き抜いている人々を目の当たりにしてきた国境なき医師団 日本の事務局長である村田氏。
国際人道支援の現場で活動してきた中で気づいたことは、限りある命こそ、一番大事。でも、生きる上ではその命の使い方こそが重要だといいます。
とくに、日本のような国にいる私たちに伝えたいことは、「夢をもたない、追いかけないのはモッタイナイ!」「自分の命を大きく使って生きよう」ということ。
この命の使い方について本書では以下の6つのポイントから考えます。
1.世界……世界の現実を知る
2.アイデンティティ……「自分が何者であるか」の問いに決着
3.夢……「これができれば本望」という夢をもつ
4.戦略……夢を“ぼんやりとした夢”で終わらせない
5.リーダーシップ……組織や社会を改善するためのアクション
6.パブリック……一人ひとりができる世界をよくする方法
本書では、この6つのポイントごとに、スーダン、シリア、イラク、イエメンなど、国際人道援助の最前線で著者が目の当たりにしてきた紛争地でのエピソードと、ハーバード・ケネディスクール人気No.1 ロナルド・ハイフェッツ教授から学んだ教えの一部を紹介しながら、生きる上で重要な命の使い方について解説していきます。
【目次より】
◎衝撃的だった世界の現実
〜はじめての人道援助の最前線・スーダンのダルフール地方〜
◎自分とは、どこから来ているのか?
〜イスラム教シーア派最高権威との面会〜
◎思想がまったく異なる相手との共通点をさぐれ
〜元イエメン大統領との交渉〜
◎日本のような国にいて、夢を追いかけないのはモッタイナイ
〜紛争地からの日本の若者へのメッセージ〜
◎居心地のいいゾーンに戻るな
〜ハーバード・ケネディスクール教授からの激励〜
◎ハーバードで学んだ「下から上へのリーダーシップ」とは?
〜失敗の原因から紹介する「アダプティブ・リーダーシップ論」
◎「What can we do?――僕たちには、なにができるか
〜「日本をよくしたい」「世界をよくしたい」は要注意〜