過去よりもいま。いまよりも未来

「将来、なんでも実現可能だとしたらなにをしたいか―」

杉村さんに繰り返し投げかけられた、このたったひとつの問い。この問いに本音で答えられるまで、いくつものバリアがあった。

見よう見まねでやってみた一度目の就活は全滅。どこにエントリーシートを出しても、どこからも一次面接にすら呼ばれなかった。

「確率じゃない。可能性にかけよ」国境なき医師団・日本事務局長が就職留年中、悩みぬいて一枚の紙に記した「究極の夢」_2

高校時代の偏差値は50。地方の大学で一浪、一留。偏差値のコンプレックスがあった僕は、どうしても有名大学の学生と比べてしまい自信がもてず、将来を描けなかった。自分の可能性に、勝手に天井をつくっていたのだ。

このままで、本当にいいのか。イヤ、違う。なんとかしたい。なら、自分の人生で本当にやりたいことはなんなのか。

この問いに答えを出すために、僕は毎週、静岡から鈍行列車で東京の表参道にある「我究館」に通っていた。何百枚という紙に、自分の心の奥底にある思いを吐き出すように書き出した。そして同じように就活に真剣に取り組んでいる仲間とシェアをし、突っ込み合いをした。杉村さんとの個別面談では、こんな会話があった。

「おまえはいま、自分のことを何点ぐらいだと思っているんだ?」
「えっと、60点ぐらいですかね」
「それで、面接で何点ぐらいに見せたいと思っているんだ?」
「70点ぐらいには見せたいですね」
「ほらっ!! おまえはそういうやつなんだよ! “10”頑張っているのに“12”に見せようとするから、“4”にしか見えない。“10”なら“10”でいいじゃねぇか」

目が白黒させられるほど、痛いところをつかれた。

たしかに、自分を大きく見せようとするのは、自分に自信がない証拠だ。それからは面接で、「人生で一番頑張ったことはなんですか?」と聞かれたら、「それは、いまです」と力強く答えることができるように、就活に力を入れた。

毎日小さな目標を立て、スモールウィン(小さな勝利)を重ねていくことで、まだ発展途上の自分に自信をもつようにした。

そのとき学んだのは、「過去は過去」ということ。過去の失敗は噛(か)みしめる必要はあっても、いつまでもそれに縛られていては前に進めない。「過去よりもいま」「いまよりも未来の自分がどれだけ輝いているかが重要」なのだ。

僕はそれまで大きな目標がなく、なんとなく生きていた。だが、なにかひとつ大きな目標をもって毎日これから一生懸命に頑張れば、10年後、20年後どうなるのか。それをやってみたいと思うようになった。

過去がダメでも、自分の「これから」に希望をもって、「いま」目の前にあるものに前向きに取り組むようになったのだ。これは、大きな気持ちの変化だった。