きちんと教育を受けたかった

後悔していることはないかと聞くと、川原さんはしばらく考えて、こう答えた。

「強いて理想を言うなら、遅れることなく勉強して、中学は私立に行って、きちんと教育を受けたかった。もちろん、うちにはそんなお金もなかったし、今さらどうにもならないけど。でも、やっぱり、そこが後悔というか、挑戦はしたかったなって思います。居場所に行っても、いくつになっても、学校の話をする人は多いですよ。恨み、つらみを含めてね」

現在、川原さんは就労継続支援A型事業所で働いている。障害者が雇用契約を結んだ上で働くことが可能な福祉サービスで、勤務時間が比較的短い。川原さんは食品の倉庫で週4日、3、4時間、在庫管理や清掃を担当し、月収は5、6万円だ。

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あえて短時間勤務にしているのは、福祉の勉強をしているので時間が必要だからだ。

実は、職業訓練校に入る前、川原さんは29歳で大学に入学。奨学金と貯金でやりくりして通っていたのだが、学費が足りなくなり2年で中退した。10年の時を経て、昨年4月に通信制大学に編入したのだという。

「一応、今でも、微妙にもがいていて。大卒の資格が欲しいんです。まあ、通信大学じゃ、出たところで選択肢がそんなに広がるとは思えないけど。本人のこだわり、自己満足ですよ」

無事に大学を卒業したら、やりたいことはあるのだろうか。

「今の仕事はいくらやったところでキャリアにならないし、そもそも長期的に勤める場所じゃないので。できれば、福祉関係か心理か、何か(資格を)取ろうかなーって。どうなるかわかないけど、まあ、何とかなる。何とかなるでしょう(笑)」

笑顔で「何とかなる」と繰り返す川原さん。これまでもその言葉とともに、数々の苦難を乗り越えてきたのだろうか。

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(前編)『「大変だったのは自分の中で気持ちの折り合いをつけること」10年以上のひきこもりを経て「350円+350円の計算ができない」40歳女性が障害者手帳を取得するまで』

取材・文/萩原絹代 写真/shutterstock


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