職を転々として自死する人も

そこで、何かが吹っ切れたのだろうか。障害者手帳を取った後も、ずっと一般雇用にこだわっていたのだが、職業訓練校をやめた後は障害者雇用の仕事を探した。

時給はほぼ最低賃金で、週40時間働いても社会保険や税金を引かれると手取りは月12万円ほど。川原さんは3か所で働いたが、精神的にキツかったそうだ。

「ホント、一日中、同じことをやっているんですよ。和風小物の簪に一つ一つ値段のシールを張るとか、コーヒーの袋に産地のスタンプをひたすら押すとか。違うこともやりたいと言ったら、3時間、書類をシュレッダーにかけてねと(笑)。いやあ、『何しているんだろう、私』みたいな気持ちになってしまって……。

普通に事務職の補助とかしたいのに、任せてはくれない。一度、人事の人が『他の仕事もやってみますか』と言ってくれたけど、本社の方は『それは求めていない』って試用期間で切られたんですよ。経営者からしたら、文句を言わずに黙々と同じ作業をする障害者が欲しいんですよね」

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それにしても、これで何か所目の職場だろうか。最初に勤めた会社から数えると、軽く10か所は超えている。それでも、川原さんは「発達界隈からしたら、私は少ないほうですよ」と、こともなげに言う。

「みんなすぐ仕事を辞めるし、続かないから。無理して社会にしがみついている子、いっぱいいるもの。居場所で知り合った人で、先に旅立った子も多いですよ」

「え、自殺しちゃったってこと?」
びっくりして聞き返すと、あっさり肯定する。

「ほとんどそう。別にその子たちを否定するつもりもないし、私も、子どものころの病気がなければ、その子たちみたいに自死とか気軽に考えられたんだろうけど。なんか、生きたくても生きられない子がいたとか、命は一番大事にしなきゃいけないとか、いろいろ聞かされてきたからね。そういう状態になる前に自分で手は打ったんだと思います」

だからこそ、川原さんは自分を障害者だと認めて、障害者手帳も取ったのだろう。

少しでもやりがいのある仕事を探したいと、就労移行支援事業所にも通った。就労移行支援とは、働く意欲のある障害者に対して、企業への就職活動をサポートする福祉サービスで2年間利用できる。事業所は全国に3000か所以上あるが、残念ながら玉石混交だ。川原さんが通った事業所は、いいこと尽くしのパンフレットの記載とは違い、実際は自習ばかりで就職先もなかなか紹介してもらえず、半年ほどで辞めたという。

2022年の文科省の調査では、小中学生の8.8%が発達障害の疑いがあり支援が必要とされている。川原さんのように生きづらさを抱え、大人になってから発達障害だと診断される人も増えている。障害の特性上、苦手なことはあるが、得意なこともたくさんあるのに、能力を活かせる仕事にはなかなか巡り合えない。

それは、川原さんだけではないだろう。本人も辛いが、社会にとっても大きな損失だ。