少しずつ信頼を得るには

人と近づきたい時に、まず私が使うのがお菓子です。単純なようですが、お菓子の力は絶大で、とくに女性を味方につけてくれる。

「もらいものですけど……」

と、いただきものを渡すのでもいいし、ドーナツなどでも買っていくと、自然な会話のきっかけになりますし、人間関係が一歩前進します。

日本の手土産文化というのは、なかなか侮れないものだと思います。たとえ初対面同士でも、渡す側も貰う側も双方が手土産によって緊張がほぐれる。

「自宅の近所で評判の店なんですけどね……」「あら、どちらにお住まいなんですか」など、ちょっとした、なんでもない会話がその後のやりとりをスムーズにしてくれる。「ほんの気持ち」の手土産の力は、「ほんの」どころか絶大です。

日大でも、お菓子をきっかけに少しずつ仲よくなって、「はっきり言いますけど……」と大学内の問題について忌憚のない意見を言ってくれる人たちが増えてきました。

そういう時は、「本当にありがとう」とお礼を伝えたあとで、せっかく教えてくれた問題が出来るかぎり早く改善するように動くようにしています。勇気を出して言ってくれたのですから、絶対にその信頼を裏切りたくありません。

「このオバさん、なんでこんなにエラそうなの?」という印象から始まってしまう出会いに対してできること。林真理子が初対面の人の心をひらくために心がける「アピール」とは_3
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信頼というと、これはどんな会社でも同じだと思いますが、職場の事務の人たちは本当によく人を見ています。たとえば、仕事上のつき合いで送られてきたお中元やお歳暮を自宅に持って帰る人。「みんなで食べよう」と言って分け合う人との人間力は、そんな些細なことで大きく開いてしまいます。

お金も、小銭ほど気をつけなければいけません。個人のお弁当代とか私用のお土産代まで経費で落とそうとする人は、それだけで信頼を損ねてしまう。些細なことをケチる方が、よっぽど高くつく結果になるのです。

「力を持っている人は誰かを口説いてはいけない」
キャパ越えを楽しもう 仕事をどう面白がるか

文/林真理子
写真/shutterstock

『成熟スイッチ』(講談社現代新書)
林真理子
「このオバさん、なんでこんなにエラそうなの?」という印象から始まってしまう出会いに対してできること。林真理子が初対面の人の心をひらくために心がける「アピール」とは_4
2022年11月7日
840円
192 ページ
ISBN:978-4065302743
昨日とは少し違う自分になる「成熟スイッチ」はすぐそこにある――。ベストセラー『野心のすすめ』から9年、人気作家が成熟世代におくる待望の人生論新書。

日大理事長就任、「老い」との近づき方など、自身の成熟の現在地を明かしながら、「人間関係の心得」「世間を渡る作法」ほか四つの成熟のテーマについて綴っていく。

先輩・後輩世代とのつき合い方、自分の株が上がる「お礼」の方法、
会話を面白くする「毒」の入れ方など、著者ならではの成熟テクニックが詰まった一冊!
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