憧れの人にアピールする
渡辺淳一先生、宮尾登美子先生、田辺聖子先生、瀬戸内寂聴先生……お世話になった先生方が一人また一人と居なくなってしまいました。この事実と正面から向き合うと、さびしくてたまらなくなるので、普段は出来るだけ考えないようにしています。
デビュー時には生意気なキャラクターに見られていた私ですが、名だたる先輩作家の方々から随分かわいがってもらってきました。なぜそんなに目をかけてもらったかというと、我ながら思うに、懐き方が上手いのでしょう。
私の実家は、母が戦後に山梨で始めた「林書房」という小さな本屋です。本屋の娘として育ったので「作家の方々に食べさせてもらった」という思いが刷り込まれています。大好きな有名作家に会うと「わーい、本物だ」と胸がときめき、嬉しくてたまりませんでした。初めて五木寛之先生にお会いした時も大感激しました。
そんな調子ですから、好きな作家を目の前にすると、作家愛が表情からも態度からもどうしようもなく溢れ出てしまうのです。尊敬する人の前で固まったり後ずさりしてしまう人もいますが、私は臆面もなくズカズカと前に出ていくタイプ。
「子どもの頃から大ファンです。あの本は……」
好きな作品の感想を伝えると、作家自身も私の敬愛が本物だということを見抜いてくれます。自分の本をちゃんと読んでくれているか、作家はすぐに察知しますから。
前項の対談相手への好意の見せ方にも重なりますが、もともと尊敬の念を持っているならなおさら、それを相手に表さない手はありません。「大好きです」「ずっと会いたかった」と言われて、嬉しくない人はいません。中には、こちらの勢いに引いてしまう人も少数いるかもしれませんが、黙っていたら何も始まらないのですから同じことです。
気持ちを伝えたあとは、たとえどんなに親しくなっても、礼節をわきまえること。私は、女学校教師をしていたこともある母から「長幼の序」は叩き込まれていたので、そういう点での失礼は少なかったと思います。
何かをしてもらったり、ご馳走になったりした時には、必ず自筆のお礼状を送っていました。これを雑誌『噂の眞相』(2004年休刊)に、「林真理子が直木賞の選考委員になるために、大御所作家に手紙を送りまくって媚びている」と書かれたことがあります。
お礼の手紙を送るのは私にとっては当たり前のことなので、「いったい何が悪いわけ!?」と驚きながら腹を立てたものです。