貯金がなくなる前に新たな仕事を見つけたい
今は会社員の父親と2人暮らしで、高梨さんが炊事、洗濯、掃除など家事を全てやっている。リストラされてひきこもっていた時、母親に「家にいるなら家事をしなさい」と怒られ、料理のイロハをちょっとずつ叩き込まれたのが役に立った。
父親は来年3月に退職する。世間体を気にして高梨さんを扶養に入れてないので、高梨さんは健康保険や年金を自分で払っている。生活費は父親が出してくれているが、ひきこもりの活動費などは自分の貯金でまかなっており、来年には底をつく。
貯金が無くなる前に新たな仕事を見つけたいが、まだ見通しも立っていないという。追い詰められた気持ちになってもおかしくない状況なのだが、あまり気にしていないようだ。
「駅まで歩いてバス代往復520円を浮かせたり、涙ぐましい努力をしていますよ。せっかくね、空いている時間なんで、この時間を生かそうと考えています。この取材もそうですが、何か頼まれたら、基本、断らないようにしています。つい先日も、ひきこもりの活動で、いきなり30~40人の前でプレゼンさせられて。
活動を始めた最初の頃は、皆の前で話をするだけでも準備に2、3カ月かかっていたけど、意外とやったら、できたという感じです。そういう経験を活かせる仕事が見つかるといいんですけどね」
なんだか、たくましさすら感じさせる。今の生活で不満に思っていることはないかと聞くと、こんな言葉が返ってきた。
「家事を全部やっても、あまり感謝されないのがつらいです。この間も家でエビチリを作ったら、玉ねぎをもうちょっと大きく切らないと食感がどうのこうのと父親に言われて、自分で作らないくせに何言ってるんだと。今の状態を認めてほしいというか、僕がやるのを当たり前とは思わないでほしいですね」
「なんか夫への愚痴を言う主婦みたいですね」
笑いながらそう突っ込みを入れると、山中さんもハッとして照れたように笑った。
(前編)はこちらから
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取材・文/萩原絹代 写真/shutterstock
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