20歳で出合った本に感銘を受けて精神科医の道へ

今年3月、前月に実施された「医師国家試験」の結果がジンジンさんの手元に届いた。

一般問題・臨床実地試験と禁忌肢選択数はクリアも、必修問題にあと10点足らず5年連続で不合格
一般問題・臨床実地試験と禁忌肢選択数はクリアも、必修問題にあと10点足らず5年連続で不合格(写真/本人Xより。以下同)
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200点中160点以上が合格基準の必修問題であと10点足らず、これで5年連続の不合格。だが、この男はこの程度のことではへこたれない。

「いやいや、さすがにショックでしたよ。でも惜しいところまでいったので、そこは切り替えてまた明日からがんばろうと」

11浪6留年5国試浪人。たった1年の浪人や留年で絶望する若者が多いなか、ジンジンさんの生きざまはまさに不屈。

しかし、なぜ医者という仕事にそこまでこだわるのか。

「困っている人の力になりたい。ただそれだけですね」

現在48歳、広島市で医者を目指すジンジンさん
現在48歳、広島市で医者を目指すジンジンさん

耳触りのよすぎる答えに、この記事を読んでいるあなたも「本当は『お金持ちになりたい』『モテたい』という思いを捨てきれないだけだろ」と思ったに違いない。もう少しジンジンさんの話を聞いてみよう。

「医者を目指したきっかけですか? 小学生から医者という職業になんとなく憧れていて、現役(受験生)のころは漠然と内科がいいかなと考えていたんです。ところが20歳のとき、精神科医の木村敏(びん)先生が書いた『心の病理を考える』という精神病理に関する本を読んで感銘を受けまして。

高校時代に仲の良かった同級生がうつで大学を中退してしまったこともあって、心の立証というものに強く興味を持ち、精神科医を目指すことにしました」

木村氏の著作『心の病理を考える』(岩波新書)。「生物学的側面から心の病気について考えよう、解明しようという内容で、子供のころから漠然と考えていたことが言語化された気がしてとても衝撃的でした」(ジンジン)
木村氏の著作『心の病理を考える』(岩波新書)。「生物学的側面から心の病気について考えよう、解明しようという内容で、子供のころから漠然と考えていたことが言語化された気がしてとても衝撃的でした」(ジンジンさん)

ひょんなことから人生の転機を迎えたジンジンさんだが、学生時代からダントツでよい成績をおさめている人間ばかりの医師の世界で、彼はいわゆる凡人だった。

「高校は進学校ではなかったですが、その中でも成績は普通でした。そんな人間が医者になれるのかという話ですけど、当時はただ何も考えずに目指してましたね。両親も応援してくれましたし。

ただ、大学受験に落ち続けるうち、『やっぱり自分じゃ無理なのか』と思うようになりましたが」

そうして最初の関門である医学部合格を前に11年間、足踏みをすることになる。当初、応援していたはずの両親も、この時点ですっかり呆れ果てていた。