「星の王子さま」の物語をなぞるコース料理で舌の世界旅行をした気分に…鎌倉「ナミザイモクザ」のものがたり食堂
鎌倉で育ち、今も鎌倉に住み、当地を愛し続ける作家の甘糟りり子氏。食に関するエッセイも多い氏が、鎌倉だから味わえる美味のあれこれをお届けする。今回は、月にたった3日か4日だけ提供される料理人のさわのめぐみさんの世界観を味わえるなかでも、「食べる読書感想文」ともいうべき「ものがたり食堂」がもたらす至福のひとときを。
鎌倉だから、おいしい 第二章 #11
大人になってしまった自分に少しの寂しさも感じて
「星の王子さま」には世の中のさまざまな矛盾が描かれている。小惑星の風変わりな住人たちは、実はたいていの人に当てはまる側面が強調されたキャラクターだ。せっかくの機会だから本を再読してからこのコースを味わえば良かったとも思う。「食べること」を通して、かつて夢中になった物語を改めて読むことができて気分が高揚した。同時に、自分もすっかりあきらめることやうやむやにすることを覚えた大人なのだとも感じ、少し寂しくもなった。
めぐみさんが都内から活動の拠点を鎌倉に移したのは2021年の春。季節の果物を主役にした美しいパフェはすぐに巷の噂になった。「ものがたり食堂」の他、パフェが中心のコース「休日喫茶室」やアラカルトメニュー、パフェだけの日などもある。
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私は、最初に彼女の小宇宙のようなパフェを口にした時、この人の作る料理をもっと知りたい!と思った。食べたいというより、知りたいという欲求だった。私たち「おはなし作り家」は、「読者にもっとこの人の頭の中を知りたいと思われなくちゃだめですよ」と編集者に言われる。
私も、めぐみさんの「ものがたり食堂」みたいな作品を書きたいなあと決意を新たにしたのでした。
写真・文/甘糟りり子
2020年4月3日発売
1,650円(税込)
四六判/192ページ
ISBN:978-4-08-788037-3
この本を手にとってくださって、ありがとう。
でも、もし、あなたが鎌倉の飲食店のガイドブックを探しているのなら、
ごめんなさい。これは、そういう本ではありません。(著者まえがきより抜粋)
幼少期から鎌倉で育ち、今なお住み続ける著者が、愛し、慈しみ、ともに過ごしてきたともいえる、鎌倉の珠玉の美味を語るエッセイ集。
お屋敷街に佇む未来の老舗(イチリンハナレ)、自営の畑を持つ野菜のビーン・トゥー・バー(オステリア・ジョイア)、カレーもいいけれど私はビーフサラダ(珊瑚礁 本店)、今はなき丸山亭の流れをくむ一軒(ブラッスリー・シェ・アキ)、かつての鎌倉文士に想いを馳せながら(天ぷら ひろみ)……ガイドブックやグルメサイトでは絶対にわからない、鎌倉育ちだから知っているおいしさと魅力に出会える1冊。
素材が豪華ならいいというものでもない、店の内装もまた味わいの一端を担うもの、いいバーとバーテンダーに出会う喜び……著者自身の思い出や実体験とともに語られる鎌倉のおいしいものたちは、自然と「いい店」「いい味」ってこういうことなんだな、という読後感をくれる。
版画のように精緻なタッチで描かれた阿部伸二によるイラストも美しく、まさに読んでおいしい、これまでなかった大人のための鎌倉グルメエッセイ。