コマチーナの個性を正確に伝えるのは難しい
観光客で賑わう小町通りから少しだけ奥まったところにあるのが「オステリア コマチーナ」。観光客の喧騒で渦巻く大通りから2分ほど歩くと、緑に囲まれた二階建ての建物が現れ、その一階にある。
コマチーナの個性を正確に伝えるのは意外とむずかしい。個性なんてそんな野暮なもんないよ、という雰囲気だから。「どうだすごいだろう」というところが一切ない。洗いたてのシャツの着心地のような、といったらいいだろうか。気負うことなく袖を通せて、生活に馴染んでいて、どんなシチュエーションにも合う。そんな感じ。
ここはワイン食堂をうたうイタリアンだ。店内のあちこちにはこれから飲まれるものと、すでに飲まれたもののワインボトルが置かれ、インテリアのアクセントになっている。リストにはナチュール中心にグラスが約30種類。鎌倉が誇るナチュールワインの店「鈴木屋酒店」で買うことが多いという。
ボトルはだいたい仕入れ値プラス3000円で提供している。店のFacebookには「いつもシェフはボトルで飲むお客様を羨ましく思っています」とある。ワイン好きの友人同士で気兼ねなくわいわいするのは楽しい。
とはいえうちの母は膵臓を患っており、お酒はドクターストップがかかっている。それでもこのワイン食堂が好きで、時々訪れる。ノンアルコールワインや葉山の赤紫蘇ソーダで食事を楽しむのだが、ある時は一人でカウンター席に座ったと聞き、ちょっと驚いた。お酒の飲めない88歳でもすんなり受け入れてくれる雰囲気がここにはある。
母が大好きなのが「馬肉のタルタル」だ。母も私もコマチーナに来たら必ず注文する。熊本の馬肉を塩胡椒に赤ワインビネガー、白トリュフオイルで和え、ほんの少しだけ生ニンニクを加えてある。シンプルだけれど印象的な一皿だ。レシピを聞いて納得した。調味料のちょうどいい配分でこの味が出来上がっているのだ。
パスタでは「からすみバター」をよく頼む。大きな四角いバターの上から存分にからすみがふりかけてあるビジュアルも好きだし、シンプルでこってりした味わいも大好き。
そんなことをインスタに書いたら、幼馴染から早速メッセージがきた。「私がコマチーナで一番好きなパスタはレモンクリーム!」とのこと。確かにこれも、シンプルでややこってり&さっぱりでおいしい。ある時近くのカフェで彼女とからすみバターvsレモンクリーム論争を繰り広げていたら、そこのマスターはコマチーナで「チーズリゾットをよく頼む」そうだ。
こんなふうに、各自それぞれのお気に入りがあるのっていいなあと思う。その店を象徴的なメニュー(港区っぽくいうとシグネーチャーメニューね)を目指して行くのも楽しいけれど、それぞれのお気に入りのメニューがある店は暮らしに根ざしている感じがする。