まるで舌だけで旅行したような気分にもなる

次の惑星の住人は「実業家」はとんぶりを使った一皿で、数を数えるのが大変な食材を使いたかったそう。誰かの確かな想像力を体験するのは最高の娯楽だ。

圧巻だったのは「点燈夫」。小惑星の点燈夫は毎朝街灯をつけ、夜になると消す。ただそれだけを繰り返している。毎年、星の自転が早くなって、挙句に星の一日は一分になり、彼は絶えずつけたり消したりしていなければならなくなった。なんだかやたらとサイクルが早くなってあくせくしている現代の私たちのようだ。

テーブルにはおだやかな灯りを放つ蝋燭が置かれた。まあ、ここまでは想像の範疇。頼りない火は時々消えてしまったりもする。アロマキャンドルか何かかと思ったら、なんとこれは香草バターでできた蝋燭だったのだ。メインの皿は伊勢海老のリゾットで、このバターをかけて、味を変化させるという仕掛けである。

「実業家」はとんぶりを使った一皿
「実業家」はとんぶりを使った一皿
圧巻だった「点燈夫」
圧巻だった「点燈夫」

最後の星に住んでいたのは「地理学者」。ここでは季節の食材による甘くないパフェ。パフェグラスには、底からパプリカのムース、枝豆、海老出汁のジュレ、じゅんさい、雲丹、ガタイフ、とうもろこしのジェラード、オレガノメレンゲが地層に見立てて重なっている。

調理をするめぐみさん
調理をするめぐみさん
最後の星に住んでいたのは「地理学者」
最後の星に住んでいたのは「地理学者」

惑星の旅から戻った王子は砂漠の美しさに気づく。「砂漠が美しいのは、どこかに一つ井戸を隠しているからだよ」。この挿話からは二品。ラマダン明けに食べると美味しいと言われている中東の料理「イマル パユルドゥ」。舌を噛みそうな名前はトルコ語でお坊さんの気絶を意味し(それぐらい美味ということ)、茄子とトマトの煮込み料理。このコースでは豚肉に添えてあった。もう一皿は桃とゴルゴンゾーラのカッペリーニ。桃のみずみずしさは砂漠の井戸水のよう。

中東の料理「イマル パユルドゥ」を豚肉に添えて
中東の料理「イマル パユルドゥ」を豚肉に添えて
桃とゴルゴンゾーラのカッペリーニ
桃とゴルゴンゾーラのカッペリーニ

デザートは「困ったバオバブの木の芽」を見立てたもの。豆苗、ブラックココアのクッキー、アプリコットジェラード、種から作った杏仁豆腐、さくらんぼの寒天、プラム。

コースのあちこちにインスピレーションが散りばめられていて、次はどんな皿が来るのだろうと待ち遠しくなった。世界各国の料理が源になっており、舌だけで旅行したような気分にもなる。