「暑い…」という言葉を自分に禁じてみるものの

暑い。という言葉を自分に禁止しているのだけれど、それでもつぶやいてしまう。暑い、暑―いぃ。災害級ともいわれる酷暑の夏、三日とあけずにスパイス料理を食べている。味覚的にというより、生き残るために身体がスパイスを欲している気がするのだ。

この夏のスパイス活動を記録した。

とある暑い日。
極楽寺の「アナン邸」に行く。1958年開業、3代に渡ってインド人が経営するスパイス専門店。鎌倉のスーパーではたいてい「カレーブック」と名付けられた黄色いパッケージのこちらのスパイスセットが売られていて、馴染みのある人は多い。私は高校生までインドからの輸入品だと思っていたので、鎌倉発と知った時はおどろいた。
極楽寺橋のほど近く、築百年の日本家屋で営む店には、いろんな種類のスパイスはもちろん、チャイのセットやオリジナルの塩、カレー出汁にインディカ米、豆などインド料理に関するものがずらりと並んでいる。レシピ本もある。

この日はターメリックの大きなボトルを買いに来たのだけれど、目移りしてしまう。本屋と同じでこういう無駄な目移りが楽しいし、そこから新しい自分の好みやセンスが生まれるものだ。カレー出汁を迷ってやめ、ターメリックとチャイのセットを購入。とはいえ、気になってしようがないから、きっと私は近いうちにカレー出汁を買いに行くだろう。専門店めぐりは楽しい。

見た目も味もかなりクセのあるカレー

とあるもっと暑い日。
友人への暑中見舞いにお気に入りのカレーを送る約束をしていたので、ランチがてら大町は農協近くにある「極楽カリー」を訪問。こちらは冷凍で販売もしているので、時々、ありきたりな美味に飽きている人に「ちょっとしたお返し」をしたい時に使う。見た目も味もかなりクセのあるカレーで、ハマる人はハマるけれどそうでない人にとってはよくわからない代物かもしれない。

生き残るために身体がスパイスを欲している気がするのだ
生き残るために身体がスパイスを欲している気がするのだ
すべての画像を見る

私はたまに、このカリーが頭に浮かぶと、食べたくて食べたくて仕方がなくなり、他のものを口にしても上の空になってしまう。ある友人は「最初はビジュアルにちょっと引いた」といいつつも堪能してくれたというし、ある友人はゆで卵を添えて楽しんでくれた。また別の友人は「私はおいしかった」そうだが、どうやらパートナーの口には合わなかったみたい。角度のついたカレーだから、そんなこともたまにある。

インパクト大のビジュアル。ここに「映え」はない
インパクト大のビジュアル。ここに「映え」はない

冷凍のカレーを湯煎して、濾してから食べるのだが、その際、濾したオイルも取っておいて炒めものに使う。キャベツが私のおすすめだ。その際、キャベツは包丁を使わず、手でちぎる。
こちらのカレーは骨付きのチキンを何種類ものスパイスとトマト、ニンニク、玉葱、生姜で煮こんだもの。スープではなくルウでもなく、ほろっほろに解けたチキンを味わうカレーである。焦茶色になった鶏肉の集合体なので、「映え」はない。水は一切使わず、味付けは塩のみで、パキスタンのスタイルだそう。使われているスパイスは、ウコン、グローブ、クミン、コリアンダー、シナモン、カルダモン、ブラックペッパー。味は濃いのだけれど、意外と辛さはそれほどでもなく、かなりオイリー。食べ終わる頃には身体が内側からぽかぽかしてくる。これぞスパイスの醍醐味。

店でのメニューもこの極楽カリーのセットのみ。サラダとデザートが付いてくる。営業時間は12時から30食のみ。営業直後は並んでいることも多く、タイミングを逃すともうクローズしていることも少なくない。この日は炎天下の中数人ほど行列ができていて迷ったが、並んだ。サラダもデザートもしっかりおいしいので、並んででもいく価値あり。

酷暑の夏。甘糟りり子が生き残るために始めた“スパイス”活動、鎌倉にてカレー三昧の日々_3