別班員になるための試験問題

以下はAが話してくれた体験談だ。

ある日突然、当時所属していた部隊の上官の指示を受け、Aは陸上自衛隊小平学校の心理戦防護課程の入校試験を受けることになった。

面接試験では、教官が「先ほどの休憩時間にトイレに行ったな。そのトイレのタイルの色を言え」と意表を突く出題をしてきた。情報畑の経験があったAは、見た風景の全体を記憶する訓練を受けたことがあり、この出題はなんとかクリアすることができた。

『VIVANT』乃木も受けたのか? “別班員”になるための試験を元隊員だった自衛隊幹部が明らかに…「トイレのタイルの色は?」「X国はどこにある?」1人につき1時間以上の質問攻め_3

また別の教官は、大陸の形だけが描かれた地域別の世界地図を数枚示して、「X国がある部分を示せ」と質問した。X国は目立たない小国で、難問だった。Aが「このあたりです」と答えると、「X国はこの地図には含まれていない。別の地域だ」などという無茶苦茶な出題もあった。

入校のための適性試験は長時間かけて、複数の教官からありとあらゆることを聞かれ、終了時には心身ともに疲労困憊していた。厳しすぎる試験に「たとえ心理戦防護課程に入校できても、やっていけるのか。放校になって、原隊に帰されてしまうのではないか」と強く不安を感じたという。

だが、Aが受けた試験は、決して特別なものではなかった。

畠山清行著、保阪正康編の『秘録陸軍中野学校』に収録されている、陸上自衛隊小平学校心理戦防護課程の前身・旧陸軍中野学校の入校試験に関する証言を見ると、それは明らかだ。

〈田崎清人第一期生(当時見習士官)は、「自分は、かつての陸大の試験をうけた将校から『今あがってきた階段は何段あったか』ときかれたという話をきいていた。それで、たぶん、そんな問題が出るのではないかと思っていると、はたして『いま、エレベーターに乗ってきて、感じたことはないか』と、まっ先にきかれた。『みんな扉のほうを向いていた』と答えると、こんどは、『謀略とはなにか。もし、それを南方で行なうとすれば、具体的にはどうしたらいいか』と質問された。それから、家庭の事情、女遊びをしたことがあるかなど、四、五十分も、四方から質問ぜめにされた」〉

〈塚本繁三期生(終戦時大尉)は、「生い立ちから大学を出るまでと、世界情勢や思想動向をきかれた。『グアム島はどこにあるか。この地図で捜せ』と、世界地図をしめした。ところが、前もってグアム島だけは消してあった。でたらめをいって、知ったかぶりをするかどうかためしたり、堅い話からやわらかい話と、われわれのときは、一人に一時間から一時間半もかけて質問した。あれだけやられたら、どんなに仮面をかぶっていてもはがれてしまうし、性格もはっきりわかる」〉