基礎教育の修了後には、危険極まりない訓練が待つ

「トイレのタイルの色」と「エレベーターで感じたこと」、「X国」と「グアム島」。私が小平学校心理戦防護課程の入校試験についてAに取材したのが2010年6月で、『秘録陸軍中野学校』を読んだのがその約2年後。現代の小平学校と戦時中の中野学校の入校試験の類似性に気付いた瞬間、驚いた私は思わず声を上げてしまった。

心理戦防護課程の面接試験では、「ここに入る前にいた控え室の机の上にあった新聞は何新聞だったか」との質問もあったという。

さらに、試験を受けていると突然、「電気系統の故障はこの部屋か」と電気工事業者が入室してきて、教官が「違う。別の部屋だ」と答え、業者は退出。その後教官が「今の男の眼鏡のフレームは何色だったか」「右手には何を持っていたか」などと質問するテストもあったという。

心理戦防護課程の入校者は基本的には陸上自衛隊員だが、Aによると、ごくまれに海上自衛隊員、航空自衛隊員が入ることもあったという。

同期は数人から十数人ほど。課程では、情報に関する座学のほか、追跡、張り込み、尾行、そして尾行をまく訓練もあった。

『VIVANT』乃木も受けたのか? “別班員”になるための試験を元隊員だった自衛隊幹部が明らかに…「トイレのタイルの色は?」「X国はどこにある?」1人につき1時間以上の質問攻め_4
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警察の捜査員顔負けの訓練内容だが、張り込みや尾行についても、〝警察の外事・公安流〟ではなく、伝統の〝旧陸軍中野学校流〟で、両者の手段、方法は全く違うのだという。

どう違うのか、と尋ねたが、笑って誤魔化されてしまった。「ど素人に言っても、分かるはずがない」という笑いだった。

基礎教育の修了後には、朝鮮総聯の幹部に食い込んで内部情報を取ってくる訓練や、突然、地方の町に出張させられ、町民から怪しまれないようにその町の権力構造を調査する訓練などもあった。

万が一、発覚するような事態になれば大問題に発展しかねない、危険極まりない訓練だ。

そう言えば、前述した作家の三島由紀夫が陸上自衛隊調査学校教育課長の山本舜勝から指導を受けた、東京都台東区の山谷地区に潜行する訓練や、厳戒態勢の陸上自衛隊東部方面総監部への潜入訓練と似ているが、これも決して偶然ではないだろう。


文/石井暁 写真/shutterstock

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『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』 (講談社現代新書) 
石井 暁
『VIVANT』乃木も受けたのか? “別班員”になるための試験を元隊員だった自衛隊幹部が明らかに…「トイレのタイルの色は?」「X国はどこにある?」1人につき1時間以上の質問攻め_5
2018/10/17
¥880
200ページ
ISBN:978-4065135884
TBS系日曜劇場VIVANTで話題沸騰!
帝国陸軍から自衛隊に引き継がれた“負の遺伝子”とは? 日本が保持する「戦力」の最大タブーとは?――身分を偽装した自衛官が国内外でスパイ活動を行う、陸上自衛隊の非公然秘密情報部隊「別班」に迫った日本で唯一の書! 別班と三島由紀夫の接点、別班と米軍の関係、海外の展開先、偽装工作の手法、別班員になるための試験問題……災害派遣に象徴される自衛隊の“陽”とは正反対の“陰”の実体!


■帝国陸軍から自衛隊に引き継がれた、“負の遺伝子”とは?
■日本が保持する「戦力」の最大タブーとは?
■災害派遣に象徴される自衛隊の“陰”とは?

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本書は、身分を偽装した自衛官に海外でスパイ活動をさせている、
陸上自衛隊の非公然秘密情報部隊「別班」の実体に迫ったものである。

「別班」は、ロシア、中国、韓国、東欧などにダミーの民間会社をつくり、
民間人として送り込んだ「別班員」に、ヒューミントを展開させている。

日本国内でも、在日朝鮮人を抱き込み、北朝鮮に入国させて
情報を送らせる一方、在日本朝鮮人総聯合会にも協力者をつくり、
内部で工作活動をさせている。

たしかに、アメリカのDIA(国防情報局)のように、海外にも
ヒューミントを行う軍事組織は存在する。

しかし、いずれも文民統制(シビリアンコントロール)、あるいは政治の
コントロールが効いており、首相や防衛相がその存在さえ
知らされていない「別班」とは明確に異なる。

張作霖爆殺事件や柳条湖事件を独断で実行した旧関東軍の謀略を
持ち出すまでもなく、政治のコントロールを受けずに、
組織の指揮命令系統から外れた「別班」のような部隊の独走は、
国家の外交や安全保障を損なう恐れがあり、極めて危ういといえるのだ。

「別班」はいわば帝国陸軍の“負の遺伝子”を受け継いだ“現代の特務機関”であり、
災害派遣に象徴される自衛隊の“陽”の部分とは正反対の“陰”の部分といえる。

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〈本書のおもな内容〉
第1章 別班の輪郭
中野学校の亡霊/別班と三島由紀夫の接点/別班と米軍の関係 ほか
第2章 別班の掟
海外の展開先/偽装工作の手法/別班員になるための試験問題 ほか
第3章 最高幹部経験者の告白
別班を指揮する正体/元韓国駐在武官の証言 ほか
第4章 自衛隊制服組の独走
事務次官と陸上幕僚長の反応/防衛大臣の対応/別班OBたちの言葉 ほか 
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