別班の想像を超えた厳しさ
しかし、取材開始から1年ほど経過した頃、Aから不意に「今、一番関心があることは何か」と問われたため、イチかバチかで話してみようと決意した。現役の別班員に取材するという計画が、行き詰まっていたからだろう。
「ご存じだと思うが、陸上自衛隊に非公然の秘密情報部隊「別班」という部隊がある。その部隊が海外に拠点を設けて、情報収集活動をしていると聞いたが」
思い切って切り出すと、Aは複雑な表情を浮かべた。そしてこう話し始めた。
「実はかつて別班にいたことがある。ある事情で(別班を)辞めざるを得なくなったが……」
まさかの展開、だった。
しかし、Aの話を鵜吞みにすることはできない。単なる経歴詐称かもしれないし、非公然秘密組織の別班が仕掛けた、取材をミスリードするための罠の可能性もあるからだ。
後日、Aが所属している部隊の関係者からも話を聞く。陸上幕僚監部人事部の関係者に人事記録を調べてもらう……。詳述できないが、さまざまな角度からA周辺を取材したところ、元別班員だと確信するに至った。
そして、Aが別班を辞めざるを得なくなったのは、ふたつの理由があるという説明だった。
ひとつは東京から、海外の情報源(協力者)を遠隔操作していて失敗してしまったこと。詳しく聞くことはできなかったが、この海外の情報源がスパイであることを突き止められてしまっただろうことは、想像に難くない。
かの国の治安・情報機関や軍に追われたのか、それとも、敵対勢力に摑まれてしまったのか。いずれにしても、悲劇的な最期を迎えたに違いない。
そして、もうひとつは、別班の同僚を守るために、Aが自らの身分を明かしてしまったことだという。
何から同僚を守ろうとしたのか、私にはわからない。だが、絶対に破ってはいけない掟―陸上自衛隊員であること、そして別班の班員だということを明かしてはならない―を破ってしまった。
この件について、これ以上話してはくれなかったが、非公然秘密情報組織である別班の想像を超えた厳しさを、垣間見た瞬間だった。